思い出の断片



 今日の宿は、交易地ケセドニア。
 次々と流転してゆく事態、常に万全の体制で備えなければならない立場として。
 備品の補充と、新しい装備品の吟味にやってきたという訳だ。
 全員固まって行動していては効率が悪いので、女性陣と男連中で担当を分けて買出しに。
 アニスは相変わらずイオンの護衛なので、無論宿でお留守番。
 男三人は重い装備品担当だが、ディンの店でガイは商品の到着を待つという役割を任されたというか、押し付けられたというか。
「ま、いいんだけどな。
 ルークは旦那と二人きりのがいいだろうし。旦那は、この店に入りたくないみたいだし」
 正確には、この店の店主と顔を合わせたくないのだろう。
 幼児言葉で話す腹黒悪徳商売人。――いや、悪徳は言いすぎか。少なくとも、今まで理不尽に粗悪品を渡されたことは無い。ただ、なんというかそういう雰囲気があるのだ。ロクな商売をしていないのではないかという、カンが働く。実際、裏では悪どいこともやっているんだろう。此方に支障をきたさなければ別に構わないのだが。
「なーにを一人でブツブツ言ってるんでしゅかー?
 ささ、お待たせでしゅよ。やっと商品が出来上がったんでしゅ」
「お、そうか」
 この人当たりの良い金髪の青年としては、この胡散臭い店の店主は然程、苦手でも嫌いでも無い。独特の口調は、方言か訛りだと思えば気にもならないし、頼まれた仕事は期日内にしっかり仕上げる意識の高さは好ましいとさえ感じている。
「今回は、迷惑かけてすまなかったでしゅ。お詫びといってはなんでしゅが、これを」
「ん? これは?」
 桃色の可愛らしい包みを受け取って、ガイはディンに問いかけた。
「んっ、ふっふっふ〜。いーものでしゅよ。
 あんたさんも、いいオトナなんでしゅから、『ラブグミ』と聞けばピンとくるんでないんしゅか」
「ラブグミ…って、あれか?」
「ご想像通りだと思いましゅでしゅよ。どんな風に使おうと勝手でしゅが、あんたさん等のツレの軍人さんにはバレないようにしてくれでしゅよ」
 確かに、こんな違法ギリギリのドラッグがジェイドに見つかったら、色々な意味で面倒な事になりそうだ。かと言って、希少価値の高いこのグミを突っ返す気にもならない。余り活用する機会は無さそうだが、ここは有難く受け取っておくとしようと、ガイは素直に礼を言って店を後にした。



 交易の街だけあって、砂漠と隣り合わせの立地だというのに、ケセドニアは非常に活気がある。飛び交う人々の声、砂の道を行き交う馬車の車輪の音。そんな喧騒から逃れるように、上品な色合いの金色の髪をした二枚目の青年は、静かなバーを選んで中に入る。
 昼を過ぎた辺りの時間では、まだ人も少ない。
 青年は、疎らに客が座る店内を見回して――透明に澄んだサファイア・ブルーの瞳に、鮮やか過ぎる彩を認めて、息を、呑んだ。
「……アッシュ…」
 見間違うはずも無い、ランバルディア王家の聖なる焔を宿した美しい髪。
 己が、鮮血のアッシュだと公言して回る黒と紅の団服。
 正直、オリジナル『ルーク』に対しては、自分の中でどうにもならない溝がある。一瞬、どうするか迷った上でガイはカウンターに足を向けた。
「…久しぶりだな。何してるんだ?」
「………」
 アッシュもとうにガイの気配を感じ取っていたのだろう。微塵も狼狽の様子は無い。おそらく先ほどの動揺を気取られて察知されたのだろう。油断無い性格だと、内心で溜息を吐く。これで、ルークのように慌てふためきでもすれば、少しは可愛げがあるものを、と、そこまで考えて彼らを比較するのは残酷だと己の浅慮を省みる。
「一人なのか? あの、漆黒の翼とかいう連中は?」
「…お前には関係ない」
「――ないこともないだろ。
 お前、いっつもそのカッコでウロウロしてるのか?」
「…文句があるのか」
「文句というか、…ンなかっこじゃ、自分が六神将だって吹聴して回ってるようなものだろ? ヴァンと敵対してるんだし、目立つのはマズいんじゃないか?」
「――…アイツは、俺の超振動が必要なんだ。万が一にも俺に何かあれば、アイツの計画は水の泡だ。ンな間抜けな真似しねーよ」
 これがおそらく、ガイ以外。例えば、ルークからの忠告であったのなら、『余計な世話だ』と切り捨てる所なのだろう。ナタリア王女であればおそらく、『心配するな』と返す場面だ。だが、鮮血のアッシュという苛烈な二つ名で呼ばれる、聖なる焔のオリジナルの青年は、妙にこの金髪の幼馴染に弱い。
「まぁ、それもそうなのかもしれんがなぁ…」
 それにしても、鮮烈なまでの緋色の髪に、赤と黒のオラクル騎士団様相の服装は、やはり悪目立ちする。例え、ヴァンの配下の者は一切の手出しを控えたとしても、このような街では今回の騒動に何のしがらみも無い、ただのチンピラに絡まれる事だって十分考えられるのだ。
 ――そんな三流悪役程度に、六神将ともあろうものをどうこう出来るか否かは、兎も角。
「隣、座るぞ」
 断りを入れて、ほんの少し考えてから、カウンター席の左隣に座る。
 確かコイツは矯正教育を受けて、右利きになったんだったな、と思い出しながら。
 酒でも注文しているのかと思えば、正面の皿には、食べ掛けのチキンライスが盛ってあり。徹底して育ちのいいコイツが飲酒するわけが無いかと、苦笑が漏れた。此方は常にパーティによる団体行動なので、自炊を視野にいれて計画を立てる方が動きやすいが、単独行動のアッシュにとっては、日々の食事は外で済ませるのが最も効率が良いのだろう。
 奥でグラスの手入れをしていたマスターは、カウンター席に座った新顔に、視線だけで注文を伺った。それに対して、天に向かい咲き誇る向日葵の花弁のように、爽やかな金髪の青年は、微少のアルコール成分を含むチェダー・サワーという果実酒を頼む。
「何の用だ」
「用がなけりゃ、声もかけられないのか?」
「………」
 意地の悪い返し方だという自覚はあるが、どうしても――この深い緋色の髪をしたかつての幼馴染みに、感情的になる自分を抑えられずにいた。
 付け加えて言うなら、同じ台詞を他の奴から投げかければ、おそらくアッシュは『当然だ』と一太刀で切り捨てるだろうに、何故か言葉を呑み込んで視線を彷徨わせている。
 そんな態度が――普段は人当たりの良い青年の心を、余計に波立たせていた。
「宝珠は見つかったのか?」
「…まだだ」
「難儀だな。何か探索の手掛かりでもあればいいんだが」
 客の少なさから、注文した酒は直ぐに前に置かれた。よく冷えたそれに軽く口をつけながら、とりとめもない会話を続ける。
「地道に探すしかない」
「…そうだな」
 とはいえ、世界の何処に出現したとも知れぬローレライの宝珠を探し出すのは、至難の業だ。宝珠と対になる鍵はアッシュが確かに受け取っているので、此方に具現していることは確かなようだが。
 ちなみに、隣に静かに座る気性の激しいオリジナル・ルークに言わせれば『あの屑がしっかり宝珠を受け取っていれば、こんな面倒な事にはならなかった』んだそうだが、それに対して、ガイは少々疑問を感じていた。
「なぁ、アッシュ」
「なんだ」
「宝珠の事なんだが、――少し、気になっているんだがな。
 お前とルークと、ローレライは完全同位体だろ。同位体は常に惹かれあう性質を持っているんだ。もし、ルークが宝珠の存在に気付かずに取りこぼしたとしても、必ず近くに出現してると思うんだがなぁ」
「…だか実際に、あの屑は受け取ってねぇし。全てのゲートで、それらしい反応もねぇ」
「まぁ、…そうなんだが」
 だか、何かが引っかかる。
「話はそれだけか。なら、俺はもう行く」
「宝珠探しか?」
「それ以外ねぇだろ」
 相変わらず忙しない奴だと肩を竦めて、これ以上無理に留めるのも無意味かと、ガイは嘆息した。
「無理に引き止めて悪かった。
 ああ、そうだ。アッシュ、一つだけいいか?」
「…なんだ」
 席を立ちかけたアッシュは、腰にまで届く美しい緋色の髪をサラ…と揺らして、決意と信念を秘めた翡翠の眼差しを、永遠に失われし故郷の面影を胸に抱く青年に向けた。
「ルークの事なんだが」
 途端、端整な顔立ちに激しい険が浮かぶ。結果的に複製品によってアッシュは己の全てを奪われた。それは変え様のない事実だ。しかし、それを望み実行したのはルークでは無く、ヴァン謡将。そう、ヴァンデルデスカ・ムスト・フェンデ。
 何も知らぬ子(ルーク)を裏切り絶望に叩き落し、誇り高きランバルディア王家の継承者を、修羅の覇道を共に歩ませるよう仕向けた――悲し過ぎる、最低の男の仕業だ。
 そして、そのヴァンと共謀しながら、ルークが摩り替わっていた事実に十年間も気付かずにいた間抜けで迂闊な自分と。
 憎悪というものを滾らせるのならが、此方が適当だろうに、何故かアッシュの憎しみは全て己の同位体へ注がれていた。確かに、恨まずにはいられぬ境遇だろうが、ルークに対しては完全に八つ当たりの状態だ。
「お前、あいつに、レプリカだとか、出来損ないだとか、よく連呼してるだろう?
 確かにルークの奴は劣化レプリカとか言うヤツらしいが、別に望んでそうなった訳じゃないだろ。それに、あいつは変わった。変わろうとしてる。辛くても前を向いて、歯を食いしばって頑張ってる。お前にルークを認めてやれとは言わないが、言葉で存在を否定するのは止めてやって欲しいんだ」
 なるべく、言葉を選んで伝えたつもりだった。
 聖なる焔として生まれた青年は性急で激昂し易い性格だが、決して、愚拙では無い。寧ろ、崇高な精神と高い見識を備えた、人心を理解する正しく王の器だ。身内の欲目でもなんでもなく、賢王と名高いマルクト皇帝に勝るとも劣らぬ統治者として成長するだろう事は、疑いようもない。
 なので、決して己の非業の運命がレプリカの存在の所為では無い事は、理解しているはずなのだ。ただ、呑み込めぬ怒りと悲しみの行き場をルークに求めてしまっているだけで。
「ふざけるなッ!!!」
 だが、反発は予想よりも随分圧倒的であった。その勢いに目を丸くするガイだ。
「アッシュ…」
「俺は――、俺はあの劣化レプリカに全てを奪われた! 全てだ!! 俺である事すら奪われた!!
 なのに、お前までそれを許せと言うのか!? アイツの肩を持つのか!!」
「アッシュッ…! 肩を持つとか、そういう話じゃない!
 確かに、ルークはお前の居場所を奪ってしまった結果になっている。けど、それだってルークの所為じゃないだろ。そんなこと、お前にだって分かっているだろ?」
 眉尻を下げて困惑しながらも説得してくる金の髪が目障りだった。どいつもこいつも、あの代用品が良いのか。あんな出来損ないの屑野郎が、そんなに、そんなに――…!
「……だったらッ!」
 ――昂ぶった感情から、一転。ふっ、と心の中で何かが途切れて、弾けた。
「…お前は、俺にあの屑を『ルーク』とでも呼んでやれと…、言うのか?」
 不意に、それまでの様子を一変させ、王家の証でもある緋色の髪の青年は俯いた。
 その言葉の奥に潜む自虐に気付いてやれぬほど、無頓着な性格はしていない。ガイは突然に覇気を失った年下を気遣い、声を殊更に優しくさせて語りかけた。
「…流石にそこまでは言わないさ。
 今まで通り『屑』でもいい。それなら、まぁ――他の連中にも使ってる言葉だしな。
 お前だって、分かってはいるんだろ。ルークが生まれなきゃ、お前は聖なる焔として今頃ユリアの譜言通りに死んでいた。ルークの存在によって失ったものも多いだろうけど、今ここにお前が存在しているのも、あいつのお陰なんだ」
「………」
 反論の声が無いのは、肯定の証なのだろう。
 しかし――、
「…生きて」
「アッシュ?」
「生き残って何になる。
 俺はもう、六神将『鮮血のアッシュ』だ。『ルーク』には戻れねェ」
 鮮血のアッシュ――返り血によく映える緋色の髪と黒の教団服から名付けられた二つ名だと、何処かで聞きかじった事がある。教団内部にて秘密裏に陽動作戦等を実行する武装部隊の隊長。まさかそれが、誘拐されたルーク本人だとは夢にも思わなかったが。
「バチカルに戻る気は無いのか…? ナタリアや奥様だって、お前を待っているだろうに」
「………」
 逡巡の後、アッシュは首を横に振った。
 その仕草は酷く弱々しく、普段の六神将の雄々しき姿からは想像もつかない。
「戻れねェよ。もう『ルーク』の名はあいつのものだ。
 今更取り上げてどうする。そんな真似をして、その後あの屑はどうすればいい。
俺の代用品として死ぬために作り出されて、無知でいるほうが都合がいいと、利用されて。用が済んだら今度は与えたモン全部奪い取って――俺は、ンな最低なヤツになるつもりはねェよ」
「…アッシュ…」
 それは、ガイにとって意外な独白だった。
 常々、己の複製品であるルークを事あるごとに卑下し、乱暴に追い払ってきたはずのアッシュが、誰よりもルークの行く先を憂えてやっているのだ。これに驚嘆せずに、どうしろというのか。
「…そうか。そうだな」
 そして、そんな幼馴染みの心中を計れずにいた己を恥じ、ガイはうーんと考え込んだ。
 腕を組み、顎を親指の腹で押さえる、昔から変わらぬ思索の際の癖。
「なら、俺の屋敷に来ないか?
 風来坊の根無し草でいるよりナタリアも奥様も安心だし。それに、ピオニー陛下は多少変わってはいるが、度量のある寛厚な方だから、いろいろ良くしてくれると思うぞ」
 その申し出に、心底意外そうにアッシュは目を剥いた。
「…なんだ、俺のトコはそんなに駄目か?」
 流石にそこまで顕著に反応を返されると、余程おかしな事を口走ってしまったのかと、不安になるガイだ。
「…いや、駄目というか。
 ――…お前、」
「ん?」
 歯に衣着せぬ物言いのアッシュにしては珍しい、躊躇う口調が気にかかる。一体、何なのかと先を促せば、口ごもりながら、綺麗な横顔の青年は続けた。
「…俺を、嫌っているだろう。
 お前に面倒をかけるつもりはない。俺には関わるな」
「………」
 今度は、此方が絶句する番だった。
 いや確かにホド殲滅戦による心のしこりが無いとは言わないが、しかし、こうまでハッキリとアッシュに『嫌われている』と自覚させる程、酷い態度を取っていただろうか。
 呆然としながらも記憶を辿れば――確かに、思い当たる節はある。
 強めの口調、棘のある態度。ルークに対する時とは一遍し手のひらを返したような。
 そんな己の愚行を反省しながら、ガイは後頭部を掻いて、バツが悪そうに唸った。
「あー…、悪かった」
「?」
 突然に謝罪の言葉を手渡されても、アッシュにしてみれば訳が分からない。ランバルディア王家の後継者達は、揃いもそろって良くも悪くも、見事に天然なのだ。
 不審そうに眉間の皴を深くして見上げてくる緋色の髪に、ガイはそっと手を伸ばして、触れた。長くて綺麗なそれに、反射的な接吻衝動が湧き上がるのを、常識という名前のソレで抑え込んだ。
「別にお前が嫌いってワケじゃないんだ。
 勘違いさせるような態度に関しては謝る。すまなかった」
 そして、深く頭を垂れた。
 貴族の血筋故か、礼儀正しい仕種が非常に様になる幼馴染みに、一部には悪魔の殺戮者達と恐れられる六神将の一人は、傍目にもそうと分かる程狼狽した。
「な――、」
 十年を共にした、もう一人の『ルーク』よりも些か翳りを帯びた翡翠の眼差しが、戸惑いの光を湛えているのを、顔を上げたガイはしっかりと受け止める。
「どうしてお前が謝る…。
 父上がしたことは――戦争とは言え、人殺しだ。お前には俺を恨む理由がある」
「…ん、まぁ。正直、あの人の事はこれから先も許すつもりはない。
 けれど、憎しみとはもう…違うんだ。それに、お前には何の責任も無いだろう」
 それは物事を一歩引いた場所からゆっくりと咀嚼する、年上らしい、落ち着いた言葉だった。生涯その罪を許さないと言いながらも、復讐者としての剣を下ろして穏やかに微笑む金髪の青年に、アッシュは言いようの無い憤りと、胸を抉るような痛みを感じた。
「――お前は、いつもそうだ…」
「アッシュ?」
「俺の命を狙って屋敷に入りこんだ癖に、誰よりも――傍にいて」
 常に公務で屋敷に帰らぬ父、病弱の余り殆ど寝室から姿を見せない母。七つの年まで幼い命を育んでくれた彼らを恨む訳ではないが。それでも、家庭の温かみなど一切感じられず、使用人の間で腫れ物のように育てられた記憶は酷く味気の無いもので。
「幾らでもチャンスはあったはずだろ。ホンキで殺ろうと思えば、殺れたはずだ。
 ヴァンの野郎に浚われる前に殺っちまば良かったンだよ。
 本当に――バカなヤツだ…」
「…アッシュ?」
 まるで自ら死を望むような言い草に、ガイは眉を顰めた。自虐は好きではない。自己犠牲をいう言葉を尊いと感じるのは、その人物にとって、それが机上の空論でしかないからだ。姉上達の骸に守られた己の命を否定するつもりはないが、それでも、行為自体は悲劇としか呼びようが無い。
 しかし、鮮血の二つ名も勇ましい緋色の青年は、いい意味傲慢で、傍若無人に生きている。彼から、今のような台詞が吐き出される事自体異様であった。
「――…お前、何か隠してないか?」
「……ッ」
 高く澄み切ったサファイア・ブルーの瞳が、剣呑とした光を湛え、歪められた。
「お前には関係ないッ…」
 否定は無い。相変わらず隠し事が苦手な奴だと、ガイは溜息を吐いた。
「関係ない事なっ――…」
「おい! すげェぞ!! 赤毛のボーズと雷獣組の連中が喧嘩だ、喧嘩!」
「あぁ!? あの、武装過激派の雷獣の連中とやりあってンのか? その、ボーズ殺されっぞ」
「いや、それが。ちっこいんだが、ボーズもやたら強くて、いい勝負なんだ。来いよ!」
 俄かに外が騒々しくなったかと思えば、突然、静寂で満たされた空間に飛び込んで来た一人の男が、ツレらしきテーブル席の仲間達に、騒動の内容を、身振り手振りを交え大袈裟に説明していた。興味をそそられた一行は、すぐさま外に飛び出てゆく。
「…赤毛、って――」
 もしや、と思い彼らの後を追おうとするが、後ろ髪引かれるのは、今ここにもう一人の『ルーク』がいるからで。
「サッサと行けよ。俺も、もう行く」
 すると、ガイの心情を汲み取ったのか、アッシュはそれまでの激しい動揺を消し、普段の鉄面皮で淡々と突き放した。
「〜〜〜ッ」
 しかし、世界中を駆け回っているアッシュと自分たちでは、次に何時会えるか分からない。更に言うならば、世界消滅から救済を求めて錯綜するこの度には、強大な『敵』の存在がある。例え顔を合わせる事があったとしても、修羅場である可能性が高い。考えたくも無いが、万が一にも、もしものコトがあれば、これが今生の――、
「…あぁ、クッソ!
 アッシュ。これを、持ってろ」
 思い悩んだ挙句、やはり、ルークを放っては置けないと判断したガイは、席を立ち先に店を出て行こうとするアッシュの腕を取り、可愛らしくラッピングされたピンクの包みを押し付けた。
「……? なんだこれは」
「貴重価値のグミだ。大事なモンだから、絶対返しに来い! いいな!!」
「! 何言ってッ…!」
 どうしてそんなものを受け取らねばならぬのかと、慌てて突っ返そうとするも、俊足の剣士は既に影も形も見当たらない。一人、取り残された朱牡丹のような残酷な気高さと華やかさを秘めた青年は、やられた、と悔しそうに呟いたのだった。



ガイアシュside。
実は、アシュはほえは最初はちょっと苦手でした。
ルークいじめるし。ルークいじめるし。ルークいじめるし。
でも、二週目プレイで隅々までイベントを観て。話を理解する余裕が出来て
きゅーん・・・、とトキめいたのです。
アッシュのルークに対するあの傍若無人っぷりは
八割は、ヤキモチだと思います。ガイ様取られて寂しいに違いありません。