甘い生活
ラブリーわんこ
「黙って立ってれば、すっげーイイ線いくんだけどなぁ」
むぅ、と低く呻り。
何故か小難しい顔をして睨み付けてくる育て子を、黒髪長身の二枚目青年は不思議そうに見遣った。
「? どうかしたのか、」
「んー、マスターってさぁ。中身はボケボケだけど、外っ面はいいんだよな」
明るい色の髪をした少年は、快活そうな瞳をしぱしぱさせている。
「ボケボケって…、それはないだろう」
昼の用意を終えた青年は、協会のシスターにもらった優しいミントグリーンのエプロンを首から外してぼやく。
「だーってさぁ。
見た目、完璧くさいハンサムガイのくせに、中身は天然もいいところだぜ。マスター。女の人と遊んだりしないし」
「…余り、そういうことの興味がなかったからな」
淡泊なマスターの言葉を、ふぅん、と受け流し、
「でもさっ、マスターからはなくても。言い寄られたことはあるんじゃねーの?」
人形とはいえ感情豊かな少年が、年相応の興味で訊ねてくる。
「――まぁ、あると言えばあるけど…。
でも、好意を寄せてくれる女性は、大概――婚姻を意識しているからな。こういう仕事だと、円満で幸福な家庭は望めないからね。大体、自然に離れていくよ」
「ふーん、そういうもんなんだ?」
子どもらしく、余りよく意味が理解できない姿が可愛らしい。
マスターはそんな育て子の様子に苦笑して、くしゃりとランパートの赤毛を撫でた。
「ほら、俺の話はもういいだろ。
それよりご飯にしよう、折角作ったのに冷めてしまうよ?」
「んー、へいへい」
「コラ、返事は一回『はい』だろ」
「もーっ、うるさいな〜。はい、わっかりましたマスター」
「なに、考えてるんだ?」
ふわりと、羽根のような質量で背後から抱きしめてくる腕に、ランパートは甘える仕草で頬を寄せた。
「昔のこと」
念願叶って、人となった可愛い育て子。
いや、既にその姿は青年のもので。正確な年は判らないが、十八程に成長したピノッチアに背丈も腕力も敵わない。
「昔?」
育て子であるランパートは、この一年で急激に成長したために、マスターは変わらない。
元々、年齢不詳な所もあるので、本当に若いままだ。外見年齢で二十代前半くらいか。背丈を追い越した時には密かに大喜びしたものだ。腕力に関しては、もともと活動的なタイプじゃないのでとっくに越えていたが。
「ああ、昔。俺さ、マスターに女に言い寄られたことないかとか、変なこと訊いただろ」
「……あぁ、そういえばあったな。って、……こらっ」
のんびりと構えるマスターの白い腕をぺろりと舐め上げ、青年は指先を一つ一つほおばって睦言の続きのような愛撫をくわえる。
「俺、あの頃からマスターのこと好きだったんだぜ。だから、あんなこと訊いたのに。マスターってば、ホントに無頓着でさ」
「……んっ、そ・んなこと。こらっ…はなしなさいっ…」
「や・だ・ね。俺はもう、マスターの子どもじゃない。恋人だろ」
「……っ、…わかったから……も、ダメだって…」
「ダーメ。マスターだって、その気じゃん」
つい、と。
下腹部へ指先を滑らせれば、微かに頭をもたげる淡い欲望の場所。
「………ッ、!」
己の浅ましい欲求を指摘され、元々潔白な所がある青年は、端正な顔を朱色に染め上げて言葉を無くした。
「ね、欲しいっていってよ。マスター」
「………」
けれど。
「俺のこと、好きだよな?」
「…〜〜〜っ」
赤子の頃から手塩にかけて育てた子に、ここまでいいようにされて。悔しいやら恥ずかしいやら。
なのに。
「………ばかっ」
きゅ、と。
相手を突き放すどころか、抱き寄せてしまうのはどうしたことか。
「はいはい。しょーがないよなぁ、マスターってさ♪」
見る間に上機嫌になる赤毛の青年に、ささやかな意趣返しのつもりで、
「……はい、は一回…」
まるで、昔のように口うるさくしてみるが。
「…そういうこと、この状況でいうかなー?
ま、言っろよ。すーぐ、そんな減らず口叩けなくしてやる」
まるで、子供の頃に戻ったかのように、口を尖らせて反論にして。けれど、その後に続く台詞は昔とは大違いだ。
どうしてこんな子に育ってしまったのかと嘆かわしく思う反面、わがままな恋人が愛おしくもある辺り、相当自分も熱を上げているなぁ、と。
「……なに、別のこと考えてるんだよ」
どうやら、自己分析を行っている場合ではないようだ。
若い恋人は、性急でしょうがない。
「……お前のことだよ」
ふんわりと、極上に微笑んだなら。純情にも照れてしまう辺りは、なんとも初々しいのだが。
「余裕あるじゃん、マスター」
「そりゃあね、一応、お前の育て親だよ」
「…恋人っ、だろ。じゃあ、なんだよ、マスターって子どもにでも誰にでも足開くのかよっ!?」
「……お前は、他に言い方はないのかい」
ここいらが、まだまだお子さまだなぁ、と。
普通の恋人関係なら、こういうことを口にした時点で大喧嘩、もしくは別離だ。まだ、生まれて一年少し。それを思えば、仕方がないのかもしれないが。
「しょーがねーじゃん、俺、余裕ないんだし」
なんとも情けない言いようではある。
かるく脱力しながら、苦笑するマスターだ。
「ったく、ホントにしょーがない」
そうして、我が儘な恋人に自分からキスを仕掛けて、魅惑的に誘い受けてみる。
「ほら、…おいで?」
「………余裕みせやがって、ぜってー啼かすからなっ」
ぱす、と。
シーツの海へと沈み込む二人は、濃密な夜へと――…旅立って、ゆく。
ランパートとマスターのイチャラブ
この二人は可愛いカップルだと思います
らんぱーとは、もうどうしようもなく
きゅんきゅんでマスターが好きだといいです