続・甘い生活
ラブリーわんこ



 すらりと伸ばされた白の御足の合間に、年下の恋人は舌を這わせていた。
「は、ぁ…」
 とろけそうに甘い、熱の籠もった喘ぎに、赤毛の青年は一層愛撫を深めた。
「ふっ…、ン…ッ。……ラン、パートッ」
 名前を呼ばれたなら、ゾクゾクと背筋に電流が奔る。
 普段とは、全く違う。
 艶を多分に含んだそれは、異様に青年の雄を昂ぶらせた。
「マスター、な、もっと呼べよ…。
 俺、マスターの声、スゲー好き。特に、ヤラシイコトしてる時って、すげーエッチくさくてさ」
「……っ〜〜〜!」
 年若い恋人は己の欲求に実に真正直で、モラルや体面を余り取り繕ったりしない。
 欲しいものは欲しい。
 好きなものは好き。
 激しく直情的な感情の在りようは、時に、良識に捕らわれるマスターを困惑させる。
「なぁ、マスター。
 こーんなHなカラダしてて、ホントにつきあったことねーの?
 ………もしかして、男との経験とかあンのか?」
「あ、……るわけ…、ひぅ…っ」
 思わぬ言葉に、マスターは頭に血を昇らせ怒りを顕わにするが、しかし、濡れそぼった先を甘噛みされ、声を詰まらせる。
 事の最中の主導権は完全にあちらにあり、どうにも自由の利かないマスターは、満足に言葉を話すことすら難しい。
「…でも、マスター。ここ、スッゲ物欲しそう、だぜ?」
 ぐい、と。
 些か性急に中へ指を押し入れられ、マスターは切なげに喉を鳴らせた。
「はっ、ぁ。……ばか…っ…」
 ついでに、憎まれ口も叩くのを忘れない。
 だが、色事に無粋な問答は無用とばかりにランパートは足の合間の欲望を丁寧に愛撫し始めた。
 丁寧に根本から舌を這わせ、昂める。
「あ、っ…………ンっぁ、も、ひ…っ…」
 後ろの指は、奥深くまで突き入れられたまま、前を温かな舌肉にねぶられ過ぎる快感にマスターは一層声を高くさせた。
 先端まで丁寧に舐め上げられたモノを、今度は口内へ導かれて隅々まで唾液を絡ませられる。その、異様な程の感触に。どうにかなりそうな快感に、黒髪の青年は表情を泣きそうに歪めた。
「ひ、………ぁあっ…、ランパー…トッ。だ、め……、…からっ」
「いーからイッちゃえって♪
 ホント、マスターってば毎回毎回恥ずかしがるんだよな、今更だろ」
 俺達、何回ヤッてると思ってんだ?
 などと、素面で聞いたのならおそらく潔癖なマスターは憤死してしまうであろうことを口走りつつ。唇にからめつく白濁をぺろりと舐るランパートは、再び恋人の快楽を促してやる。
 一度、こうやって堕としてしまえば、後はなし崩し的に最後までいけるのだ。
 なんだか余裕が無くて情けない気もするが、欲しいものはしょうがない。とにかく、マスターの中へ入って感じたい。達したい。キモチヨクなりたい。
 もっと、大人になりたい。
 もっと、貴方に近づきたい。
 だから、無理矢理。躰だけでも、繋ぎ止めてきたい。
「……くっ…、ふゥん……、ひぁ…!」
 可愛い声。
 普段マスターの声は、穏やかだけど決して中性的じゃなく、ちゃんとした男のトーンなのに、こうして組み敷かれて淫れあげる嬌声は、なんとも甘やかで。
 とうとう、堪えきれずに達したアツイカラダが痙攣を繰り返すのを、宥めるように口づけを。それこそ、所かまわずに降らせる。
「や、ラ……パートッ……」
 羞恥に、頬を染める姿が酷く淫らで。
 どうしたって、誘っているようにしか、見えない。
「マスターって、感じやすいよな♪」
 嬉しそうに言う恋人を、キッと一睨みして、マスターはその赤毛を引っ張った。
「って、イテテテッ。
 なんだよ、マスター。ムードないなぁ〜」
「っ、……お前が、変なこと…ッ言いだし………ぅあ…ッ」
 己の欲望に濡れた内股のぬめりを、そのまま後ろの窄まりへ伝わらせる動作に、マスターは息を詰めた。
「ばっ、あ、あぁっ……」
 この際、口やかましい恋人ひとの可愛らしい文句は横に置いておいて。
 とりあえず、愛撫を再開するランパートだ。
 くちくちと、それこそ、淫猥な音が耳について殊更羞恥を煽られる。堪らず、マスターは必死で己の上に覆い被さる青年の躰を押し返すが、震える両腕は呆気なく抵抗をねじ伏せられた。
「なーに、可愛いことしてだよ、マスター」
「………っぅ」
 元より、活動的な青年の腕力には敵うべくもない。
 それでなくとも、過ぎる快楽に溺れ全身の自由がきかないというのに。
 頭上に一束ねにされた己の両腕を潤んだ瞳で見遣るマスターの、絶え絶えになる呼吸を追って上下する胸が痛々しい。
 反面、そうさせているのが、この自分だということに倒錯的な愉悦が込み上げる。
「マスター、な、ここすっげーの…」
 低い声で囁いて、ランパートは内部へ深く指を突き立てた。
「あ……っ、ァ……」
 知り尽くした、弱い部分。
 慣れた手つきで探れば、感度の良いカラダは小さく跳ねた。
 その反応に満足して、赤毛の青年は気分良く攻めの手を激しくする。奥にあるポイントを指先でかすめては、その度に微妙に啼くマスターの痴態が官能を引き起こす。
「や…、ぁ・もっ…・パートォ………」
 まるで責め苦のような抱き方に、音を上げるマスターは頭上高く纏められた腕を暴れさせて、解放を望む。
 始めからそう、力を入れて押しつけていたわけでもないことと、桜色に染まる体を抱く青年がそっと戒めを解いたことから、直ぐに両腕は自由を取り戻した。
「くっ……ン、ふっ」
 そのまま。
 涙ぐんだ瞳で、抜けた腰で、両腕を使って必死にベッドの上の方へと逃げを打つ。勿論、その際に内部へ進入したままの異物はずるずると抜かれるのだが、感触に堪らず、マスターは吐息を漏らした。
 そんな恋人の媚態も、なかなかの絶景かなと喜ぶ一方。
 解放を得た両腕で自分を望んでくれるのかと淡い期待を抱いていた青年は、すこーしだけ面白くない。
 やっとのことで、内部の異物を排除して、肩で息つく恋人を。
 些か乱暴に俯せに押し倒して、十分にとろけた内部へ灼熱を打ち込んだ。
「…………ッ!!」
 声に鳴らぬ悲鳴に、綺麗にマスターの背が反り返る。
「ぁ・や…、ひっ………ぁァ…! …」
 最奥まで不躾に進入を果たす欲望の証は、その場で留まって動かない。
「っ、……?」
 この体勢では、逆に動きを止めて達してもらえないのは辛い。一体、どういうつもりなのかと肩越しに陵辱者を睨めば、にっ、と悪戯坊主の表情(カオ)をして。
「愛してるって、言ってくれよ。マスター」
 先程の問答を繰り返してくる。
「…………!!?」
 この体勢で、何を言い出すのかと。
 我が子を信じられない気持ちで見つめれば、ふてくされられてしまう。
「ンな顔してもダメだぜ、マスター。
 欲しいって言うまで、このまま♪ いちっおう言っとくけど、俺もキツイんだからな? 早く言ってな」
 ………………辛いならこんな事するな。
 そう、思うモノの、抜き差しならぬ状況故、言葉にすることは出来ない。
 相当に追いつめられているのだ。そう、身も世もなくこの我が儘で時に横柄な恋人の腕に縋り付きたいほどに。
「…………っ」
 大きく、何度か吐息をつき。
 必死で後ろの感覚から逃れるように瞼を閉じれば、より、リアルに感触が迫ってきて。
 シーツを、掻くように、ベッドに爪を立てる。
「マスター、なぁ…。ガマンすんなって」
 後ろで、余裕綽々でいる恋人が憎たらしい。
 その実、ランパートとでかなり追いつめられ、直ぐにでも睦み合いたい衝動を必死に抑えていたのだが。
 言葉を催促するかのように、琥珀の眼差しの青年は組み敷いた躰のラインを空いた手でなぞる、緩やかな愛撫を加える。
「………〜〜〜、ん。」
 それだけで、敏感な躰がいい反応をかえす。
 そうして、ついに。
 マスターは艶やかな吐息を零すその柔らかな唇から、
 我が儘お子ちゃまな恋人が望む一言を、囁いたのだ。
「……あ…して、っ…ンぅ………」
   まるで、哀願するかのような。
 生理的な涙に泣き濡れた黒の眼が、見つめてくるのに。
 ぷちり、と。
 ランパートに備わっていたなけなしの理性がふっとんだったのだった。



 背中を向けて丸まっているマスターへ、ランパートは珍しく苦笑いをしている。
「なぁ〜、マスターッ。機嫌なおせよ」
「…………」
「マスターってば、なぁ。なんで怒るんだよ」
「…………」
「そりゃ、少しは無理させたかな〜って思うけど、俺、全然酷いことしてないじゃん」
「…………………」
「だいたい、誘ったのマスターだろっ」
 すこーしも悪びれないお子さまの延々と続く言い訳を耳にし、むくりと布団の中にまるまっていた青年が泣き腫らした赤い目だけを覗かせ、這うような声で一方的に宣告した。
「………向こう一週間、夕メシ抜き」
「!! えぇぇぇえええ!! ひっっでーーーー、マスター!!」
 すっとんきょうな悲鳴を上げる恋人に、どっちが! と心の中で毒づき。
 それから延々続くランパートの泣き言を無視し、マスターは泥のような眠りにつくのだった。




これが私の文章力の限界です。
ラン×マスは、ランパートが全力で甘えてきます。
すきすきすきすきー、っと、しっぽが振り切れるくらいに。
マスターはマスターで、バカ犬が可愛くてしょーがない
そんなイチャイチャが基本です。