誤ったコイビトのシツケ方
絶妙の匙加減でお願いします



 互いの唾液で妖しくてら光る唇を、更に深く合わせて。呼吸ごと、奪い尽くすような接吻を、角度を変えては繰り返す。
 くちゅり、と。
 淫猥な水音に、一層心を震わせるのは、若く経験も浅い青年だ。
 そろそろと、確かめるようにコートの前をはだければ、もどかしそうに身じろがれ。哀願の眼差しで性急な愛撫を強請られる。
 しかし、どれだけ本能に支配されようとも、頭の隅には恋人よりいいつかった言葉が居座って、一欠片の躊躇いを生じさせる。
 いくらピノッチアから人間になり、養い子から恋人へ昇格したとはいえ、何処までいってもマスターが育て親だという事実は消えはしない。故に、一度かわした約束事を破るということに対し、酷い精神的苦痛を伴うのだ。
 やんちゃできかん気が強いとはいえ、基本は従順な犬的性質をしているランパートならではの迷いと言えよう。
「あ、――のさ。マスター…」
「………?」
 熱に浮かされた漆黒が、潤みを帯びて、赤毛の恋人を見上げる。
 その、凶悪なまでの色香に耐えながら、ランパートはおそるおそるといった様子で今更ながらに伺いを立てた。
「……ホントに、…するからな……?」
「………」
 浅く呼吸を繰り返すマスターに何事かを返す余裕など欠片も無い。返答の代わりに、おあずけ喰らった犬のようにしている恋人の手を引くと、その指をぺろりと舐めて甘噛みした。早く、と。その媚態で愛撫を乞う。
「…〜〜っ、マスター…ッ!」
 ぶちり、と。
 年若く欲望に素直な青年の内部で、何かが勢いよく切れた音がした……。
「っあ、……ッ。」
 遠慮なく前をはだけ、直接胸の痼りを親指でこねて回す。その、直接的な快楽に、黒美の獲物は呆気なく息を弾ませた。
 両の手の平で散々に淡く色づく場所を舐りこみ、快感に溺れる年上の恋人の表情を愉しむようにランパートはその額に、潤んだ目元に、紅潮した頬に口付けを落とす。
 何度も何度も、そこをこねくり回されるだけの焦れったい愛撫に、次第にマスターは理性を無くしてゆく。
「やっ…・ン……、ランッ……パートぉ……」
 もっと、愛して欲しい場所があるのに。
 決して下肢には触れてくれない、そんな意地悪さに、霰もない姿に剥かれた青年は甘やかな嬌声を上げた。
「……コッチ、欲しい…?…」
 そろり、と、布の下で立ち上がった欲望の証を撫で上げられ、身を竦ませるマスター。すっかり劣情に流されるだけの青年の痴態は、若い恋人を視覚的にも聴覚的にもいたく満足させた。
 普段、自慰すら知らぬような立ち振る舞いをしているだけに、よりソソられる。
 切なげに歪められる双眸が、直にランパートの雄を刺激した。
「……なら、…さ。」
 いつもの数倍は燃え立っている様子のマスターに煽られるお子さまは、要らぬ企てをしてきた。そうっと告げられて、既に理性を手放していたはずの青年とて一瞬、常識を取り戻す。
「ッ、〜〜〜なっ…、あ、・あッ……」
 抗議の為に開いた口からは、意味を成さない喘ぎが漏れるばかり。
 マスターが何事かを論じようとすると、狙い澄まして、無体な恋人が弱い場所を攻め立ててくるのだ。
「〜〜ッ・ふぅっ……」
 それでも、下には一切触れようとしてこない悪ガキ。根比べといった所なのだろが、既に散々焦らされたマスターは限界だった。
「……ごーじょう。…シテくれたら、俺、目一杯サービスするぜ? マスター、な?」
 ちくっ、と。
 胸の突起を片方だけくわえ込まれ、舌先でこね潰すようにしながら、そんな事を言ってのけるお子さま。
 ……じん…と、痺れた思考は巧く回らず。
「……するっ…から…、も……ぉ…・やっ」
 舌足らずな物言いで懇願するのも、既に無意識下の行為だ。
「…ん、了解♪ ゴメンな、マスター。虐めて……」
 羞恥と苦痛と快楽とで、どうしようもなくなって泣き顔になってしまった可愛い年上の恋人の眦を優しく舐め上げると、ランパートは、手早く下肢をくつろげた。
 無粋な衣服を全て剥ぎ取って、顕著になる欲望に、お子さまは嬉しくなってぺろりと、軽く外側を舐めた。
 感じてくれている。
 それが純粋に喜ばしくて、更に悦くしてあげたいのだが。
「………っ、ふぅ…っ…」
 ようやっと与えられた快楽に、陶酔とも安堵ともつかぬ吐息を零すマスターだが。
 ここで一気に進んでしまっては約束が違うので、ぐぐっ、と我慢。結構、自身もキてるので、辛かったりもしているけど。
「……じゃ、して…?」
「〜〜〜っ、」
 本気なのか? と、恨みがましげな瞳で見つけられるが、ここで引き下がっては男の浪漫が廃れるというものだ。
「は〜やくっ、マスター♪ 俺も、そろそろヤバイし……な?」
 どうしても折れてくれそうにない我が儘な恋人に、仕方がないとマスターはのろのろと上体を起こして、長椅子の上に座り込んだ。
「…………」
 躊躇、して、けれど、早く早く、と酷く愉しげにしている恋人に急かされて、ようやっとマスターは行動に移る。
 綺麗な脚線美を描く両足を椅子の上に、膝を立ち上げるようにして、………恥辱に耐えかねながらも、そろそろと左右に大きく開いた。
 自然、無茶ばかりを要求してくるお子さまな恋人の目の前に、快楽に震える己自身を余すところなく晒してしまう格好となるわけで。
 ぱった、ぱった、とあるはずのないしっぽを振って大喜びのランパートは、椅子の下に座り込むと、まじまじとマスターの恥部を観察した。
「……こーして見るの始めてだよなー…。……びくびくしてるぜ…、マスター……」
 ふぅっ、とわざと息を吹きかけて、反応を窺う。
「……〜〜、っ、あ」
「あ。すっげ、溢れてる…ヤーラシイ♪ マスター♪」
 卑らしいのはお前だーっ! と、幾ら心で毒づいても詮のないこと。まるで新しい玩具を手に入れた子どもさながらに、好奇心一杯で弱い場所を攻めるランパート。
「〜〜ラン、パートッ……、…もぉっ………」
 これ以上奇異の目に晒されるのは耐えられないとばかりに黒髪の青年が悲鳴を上げる。と、マスターが自ら強請るのを待ち侘びていたランパートが、花心を口腔へと導いた。
「っあ、……あふっ…〜〜、や、………はぁ…」
「約束だからな、目一杯…可愛がってやるよ。マスター…」
 思わず閉じかけた両足を、ぐぃ、と押し広げ。ランパートは丹念にその場所を蹂躙してゆく。
 ぬるり、と。
 生暖かい柔らかな感触に包まれて、急激に昂みへと導かれる。
 染み一つない綺麗な体が桜色に乱れて、淫らな感覚に弓なりに背が反らされた。
 快楽の海から逃れるように引ける腰を押さえ付け、我が儘な年下は充分に熟れた果実を思うがままに味わった。
「……、やっ……、くぅ…」
 切なく喉をならして、限界を伝えるマスター。
 若い恋人の赤い髪を、くしゃりと、繊細で優美な指先で掻き回して、瞳を一層潤ませた。
 その、恥じらうような仕草がより男心をくすぐるのだ。
「マスター、……いいから…出せよ……」
「んッ〜〜〜、」
 いやいや、と首を横にする。そんな幼い拒絶が可愛らしくて、普段の凛と取り澄ました仮面を壊したくて、もっと、啼かせてみたくて――。
 濡れそぼつ根本から先端までを、下の方から中の蜜を搾り取るかのように軽く噛んで舐め上げた。
「―――! ……アッ…ァァ…!」
 それまでの焦らして感じさせる愛撫から一転、直接的な快楽を与えるランパート。遂に、美しい漆黒の青年は絶頂を迎え果てる。
「………にが…」
 未だ口内で弄ぶ中心から溢れる濃厚な花蜜を味わい、琥珀をしぱしぱさせるのは年下の恋人だ。その素直といおうか、余りな物言いにマスターは更に頬を染め上げた。
「…なら、舐めるなっ…そんなもの…!」
「ん〜、でもマスターのだし♪」
「〜〜〜っ……」
「それに、サービスするって言ったし?」
 放熱の余韻に微かに震える花芯を、解放するどころか、ランパートは逆に滑った口の中へと再び導いて、舌先で意地悪くつつき回す。
「っ、何ッ? ……らんっ、や………あ・はっ……」
 吐精を促されたばかりのその場所は敏感で、ほんの少し触れられたけでも反応を返した。
 流石に連続はキツイのか、直ぐには元には戻らないが、時間を掛けて舐(ねぶ)られればじわじわと立ち上がり始める。
「………っ? ラン…パートっ?」
 このきかん気の強い年下の恋人とは、既に何度か何度か情を交わしているが、こんな真似は初めてだった。常なら、一旦悦くさせられた後には蕾をほぐされ性急な侵入をされるのに。
「…わかんねぇ?」
 と、甘い感覚に流されながらも、困惑の色を濡れた黒曜に滲ませるマスターへ、ランパートはいたずらっ子然とした笑みを浮かべた。
「サービスっていったよな、俺。
 痛いのヤだろ、マスター。………マスターが満足するまで、こうしてイかせてやるよ…。こっちにも欲しくなったら言ってな?」
 そんな事を言いながら双丘を撫でる無体な恋人。
「ッ、なっ、ランパートっ…」
 思いも寄らない展開に慌てるマスターを横目に、ランパートは愉しげに行為に没頭していった。



 次の日、若い欲望に散々嬲られたマスターは、ベッドの上から動けずに。
 真剣に恋人の躾について考えるのだった。



とにかく、エロのみのパートになりました。
年下の攻めが、ワガママな甘え方で年上を陥落!
というパターンが大好物で、自分の中で王道です。