想いの先
にゃんこラブ



 留守にした時間を感じさせない、ゆったりと時が流れる懐かしい我が家を、クラレンスはきょろきょろと物珍しげに見渡した。
「変わってないんだな、全然」
「当たり前だろう、お前が出て行ってからそんなに経ったわけじゃないんだしな」
 居間に荷物を放りだすと、クラレンスはソファのスプリングに沈み込むようにして座りこんだ。
「なんだか、随分懐かしいな…。それに落ち着く」
「そうか」
 キッチンに姿を消したマスターは、両手にカップを持って帰ってくる。一つはクラレンスが昔から気に入っていたそれだ。家を出てしまってからも、大切に終ってくれていたのだと、何気ない事で軽い感動を覚える。
「ほら、」
「…アールグレイか…」
 茶器を使ったものではなく、インスタントだが、それでも蒸らしなどの手間をかければ充分に香り深い。特に愛着のある銘柄に、クラレンスは喜んだ。
「やっぱりいいね、うん、いい香りだ。
 他でも色々味わったけど、マスターが煎れてくれたものが一番美味しい」
「…煽てても何にもないぞ」
 真っ直ぐな感想がくすぐったくて、わざとぶっきらぼうにしてみれば、そんなつもりじゃないとの軽い弁明が。
「さて…と。
 クラレンス、何か食べるか? 確か、一昨日シスターにもらった……」
 棚を物色するマスターの背中に向かい、アールグレイを一口二口、と、味わったクラレンスは意を決して立ち上がると、そうっと近づいた。
「あ、あった。シスターのお手製クッキー、お前も好きだっただ…」
 振り返ると、意外な距離に端正な顔。
 驚きに言葉を詰まらせるマスターに、してやったりと悪戯っぽい表情でクラレンスは笑む。
「シスターのクッキー、懐かしいな。
 けど、それは後からゆっくり味わせてもらうよ。ねぇ、マスター…返事、きかせて?」
 甘える仕草、ふんわりと躊躇うように抱き締めてくる腕。
 懐かしい感触と身近な温もりに、頭の芯が痺れてゆく錯覚を抱く。
「しょうがないな…、お前は昔からせっかちだね」
 ぽんぽん、と。
 はやる気持ちを抑えきれない育て子の背中を優しく宥めて、マスターはまるで昔に戻ったかのように、お父さん口調で応じる。
「ちょっと位強引にいかないと、マスターって天然だしね」
「…悪かったな?」
 自分でも少々鈍い事を自覚しているのか、憮然とした雰囲気を醸すマスターに、クラレンスは機嫌を取るように擦り寄った。
「拗ねないでよ、そういうとこも…好きだ。マスター」
「……ふぅ。お前には敵わないよ」
 諦めとも受け入れともつかない微妙な溜息を吐くマスターは、手にしていた保存ケースを傍の棚において、空いた両手で愛しき養い子を抱き留めた。
 そして、――とろける甘さの声で、掠れたそれで、囁いたのだ。
「…好き、だよ」
 感極まってか、クラレンスの全身が微かに震えて緊張を伝えた。
 そんな世間ずれしない我が子を愛おしく感じ、そして、それ以上の想いに人形師の青年は抱擁の腕に力を込める。
 しかし、返ってきたのはなんとも気の抜けた言葉だった。
「…それ、ホント? ギャグじゃないよね? マスター」
 疑わしげに、じっと上目遣いで見上げてくる綺麗に整った貌の青年に、一年間の子育てでによって随分と辛抱強くなったと自負するマスターとて、脱力感に苛まれた。
「〜〜お前は、こーゆー場面でそういう事を…〜〜」
 怒りも呆れも通り越して、力を失うマスター。
 特有のテンポを持つ養い子の左肩に、ぽんっと額をのせてふかーく溜息をついた。
 すると、場に取り残されたようにしていた高貴な猫が、まるで遊戯のようにマスターの首筋をぺろりと舐め上げた。
「!?」
 慌てて、濡れた場所を掌で押さえ、バッと顔を上げるマスター。当然のことながら、耳まで真っ赤。
「…ねぇ、マスター。マスターの好きって、こういう事でいいんだよね?」
 黒衣の青年の動揺を余所に、クラレンスは酷く艶(あだ)っぽい表情で接吻を強請った。
「……しよう。
 今すぐマスターを、抱きたい。
 …優しく……するから。しよ?」
 年端もゆかぬ稚児が、たわいもない我が儘で甘えてくるような印象。しかし、その内容といえば、到底幼な子が望むことではないが。
「………」
 と、マスターは互いを感じ合う情熱的な抱擁より、するりと逃れて。
 視線は床に向けたまま、消え入りそうなそれで一言。
「……シャワーを使ってくるから」
「……うん。わかった、マスター」
 幸せすぎて死んでしまいそう。
 この両手に抱えきれない幸福に、――目眩が、した。



 マスターが浴室からあがるのを待って、クラレンスも次いでシャワーを浴びた。
 全身をくまなく清め、これより待ち受ける至福の一時に胸が高鳴る。
 夜の帳もおりぬ間の情交は、幼い頃より徹底的に躾られた敬虔なる心に罪悪感を灯し、更に背徳的な欲望が燃え上がる。
(……カミサマ、僕は…マスターを愛しました)
 お前は神様が与えたくれた奇蹟(いのち)だと、よくマスターが話してくれた。
 もしかすると天の御遣いなのかもしれないな、と。優しい仕草で髪を梳かれた、その感触を覚えている。
 人の手で造られた疑似生命、機械仕掛けの 【生きる人形】 ――ピノッチア。
 いくら創造主に似せようとも、所詮は紛い物に過ぎなかった僕に 【命】 をくれた神様。
「……ねぇ、カミサマ…。……僕は、」

 キュ、
 ザァァァアァァッツ……。

 タイルを叩き付けんばかりの勢いで吹き出した湯が、最後の言葉を浚っていった。



 覚悟して臨んだだけあって、湯上がりにバスローブ一枚という、なんとも欲を刺激する格好で椅子に座り迎えてくれたマスターに、自分自身も濡れた菫色の髪をふんわりとしたタオルで拭いつつ高貴な風貌の青年は近づいた。
 年代を感じさせる骨董品の数々や、人形師としての知識書、様々な形の古びた道具や小さな部品の数々が所狭しと、それでも整然と並べられる部屋は昔も今も変わらぬ愛しき人の部屋。
 古めかしい書の数々や、祖父から譲り受けたという人形師の仕事道具。それらの保管に適しているという理由でマスターの自室は、日の射し込まない北向きの一室だ。
 夏場でも微かにひんやりとするその場所は、物心もつかない幼い頃に、陰がりからお化けが出てくるのではないかと怯えさせられたものだ。
 そんな、幼い日々に怖れた暗がりも、今日この場にあっては濃密な時を過ごすのにうってつけの舞台となる。
「……マスター」
 熱いシャワーで火照った体が、更に熱を帯びてくるのが自覚出来る。
 吐息と共に、掠れたそれで名を呼べば、所在無さ気に闇色の瞳を移ろわせていた人形師は、困り果てた様子で近くまで寄った養い子を見上げた。
「……えーっと。……なんだか気恥ずかしいな…」
 支度は整っているものの、いざとなると気後れしてしまうのは、一重に経験の無さ故か。
「マスター、声震えてる」
「…うるさいぞ。仕方ないだろ…始めて、…なんだから…」
 柔らかく揶揄るクラレンスを、マスターはじろりと睨んだ。
「うっふふ…、僕も始めてだよ。マスター♪」
「…じゃなかったら俺は卒倒するよ。いくら見てくれが変わっても、実年齢は二歳なんだし、早熟にも程が……っ、」
 保護者の顔に立ち戻ってしまったつれない人に、官能を刻むため、ふいにその口唇を奪う豪奢な美貌の青年。
 容赦のない接吻は刺激的すぎて、一気に理性と正気が浚われてゆく。
 暫くして、散々にマスターの口腔を味わい尽くしたクラレンスが唇を放し、零した一言は、後々まで忘れ得ぬ記憶となるのだった。
 今からヤルから早熟には変わりないな、と。



 導かれるままにベッドの上へ、とさりと優しく投げ出され、一層、心臓は早鐘を打った。
「く、く、く、クラレン…スッ、」
「なんだ、マスター」
「そのっ、……どうすればいいのか…」
「大丈夫、僕が知ってる。流石に、実践は初めてだけどな」
 何でもないという素振りで、そうっと首筋に口づける可愛い子の様子を目前に、マスターはハッキリと顔色を無くした。
「……な、なんで知って……!?」
「宇宙からのお告げ」
 いけしゃあしゃあと言ってのけるのは、形ばかりが成長しても手の焼ける中身のままの青年だ。
「何がお告げだッ! こらっ、お前一体何処でこんなっ……!」
 やはり、何処かで『保護者』である自身を切り捨てられぬのか、マスターは艶事の最中というのに声を荒げた。
「……ま、色々と」
 しかし、ここでペースを乱され主導権を奪われてしまっては、先には進めない。既に、中心が疼き始めているこの時点で、おあずけ喰らわされては溜まらないと、少々性急にマスターの前をくつろがせるクラレンス。
「こ、らっ…、……質問にっ」
 蹂躙を待つばかりの身である人形師は、僅かばかりの抵抗の意思を示すが、その声も緊張に強ばり、常時の力はない。
 それを理解した上でクラレンスは遠慮なく、唯一の家族と呼べる人、そして、無上の存在である至宝なる美貌の青年へ牙を剥く。
 月の光がよく似合う青磁の肌に、そうっと口唇を寄せて、触れるか触れないかの微妙な位置を保ったまま、淡く色づく蕾の場所まで沿わせると、一瞬の躊躇の後、口に含んだ。
「……ッ、」
 極上の獲物は小さく震え、声を押し殺す。  同意の上の行為とは言うものの、互いの肉体を絡ませ快楽を貪る淫靡な行いに、身を焦がすような羞恥を感じるマスターだ。
「……マスター、どう?」
 紅く色づく粒を舌先で潰しては立ち上げを繰り返す、まるで年端もゆかぬ子が目新しい玩具で遊ぶような仕草。
 その拙い愛撫は却って、怜悧な美貌の青年の躰を煽った。
「……ん、…ちょ、……待っ」
「待つわけ無いだろ、この状況で」
 ささやかな願いを一蹴し、捕食者は獲物を屠り続ける。
 前戯は程々に切り上げて、気分を盛り上げるためにも確実に欲望に火を灯してやる。
 そう、直接的な愛撫で遂情を促してやればよいのだ。一旦吐き出してしまえば、後はなし崩し。勢いにまかせて籠絡出来るだろうと踏んだのだ。
 手早く下肢の衣類を乱し、直に中心を握り込むクラレンス。
「…………、…ッ…!!
 クラレンスッ、…ど・こ……さわっ……めッ」
「触らないとどーしようもないけど。ヤメル?」
「〜〜〜〜っ、」
 的確な切り返しに、ぐぅの音も出ないマスター。
 そして対照的に、何処か勝ち誇り愉悦の表情を浮かべる紫水晶の輝きを思わせる青年。
 意地悪く、華麗な指先で花心を弄びながら、徐徐にマスターを追い込んでゆく。
「…っ・あ…、………ッ、だいたい…、
 なんで、……俺が……抱かれる方ッ………!」
「――そんなの、僕がマスターを抱きたいからに決まってる」
「………っ、! ……なに、言っ、ぁっ・はン」
 ふいに、嬌声が上がる。
 会話の合間にもじわじわと、真綿で首を絞める如く快楽に溺れる中心を優しく攻め立てていたのだ。遂に、理性が保てなくなってきたのか、上がる声は凄絶な色香で雄を誘惑した。
「やめ、・ぁ・……は…ぁ…」
 右手で下肢を攻め、空いた左の方は先程まで舐っていた胸元をこりこりと押し潰して愉しむ。同時に与えられる甘く痺れるような感覚に、マスターは浅い息を繰り返し、押し殺した喘ぎが口端から零れ続ける。
 いずこへ縋りついたものかと、惑った両手は切なく背中のシーツを咬み込んで、間断なく与えられる感覚に耐え忍如く小刻みに揺れていた。
(…マスター…。どうしよう……可愛い…色っぽい……、欲情。する)
 普段のマスターと言えば、その神々しきばかりの怜悧な美貌と人形師という職人気質な性質の職業が相まって、他者を寄せ付けぬ孤高さを纏う孤高のイメージだ。
 ――実際、今腕の中で乱れ咲いて見せる青年は、他者に対し驚くほど無関心な一面がある。その、圧倒的且つ無慈悲な程の排除は、人形ながらに震撼したものだ。
 貴族の優雅な連中が会するピノッチア品評会、サロンでも、やはり一庶民にしか過ぎないマスターは言い様に揶揄られ、心ない中傷すら受けた。
 しかし、周囲の風評はどうあれ、常に毅然と前を向いている姿勢は、刹那――美しかったのを、よく覚えている。
 その場において、痛烈に実感したのだ。
 マスターは……黒衣のよく似合う寡黙な人形師は、あるいは、人を憎んですらいるのではないかと。
 ――だから、余計に懼れた。
 人でないから愛されるなどと、戯けた世迷い言を思い浮かべる程――不出来な人形は既に無垢ではなかったのだ。
 賢しい知恵を身につけた偽りの命は、人を厭う人形師が、人が犯した罪の象徴のような存在を愛せるはずがない――と。
 ……いっそ、ただの人形で在れば、彼の造りだした作品の一つであれば、片時でも愛されたであろうにと。
 木偶の分際で、思い悩んだのを……その痛みを、覚えている。
 人形で、いたくなかった。
 ピノッチアの名称で呼ばれることが、苦痛だった。
 惑った末に、人である事を願ったのは……例え、憎まれる事になろうとも、創造主である彼へ近づきたかったから。
 ただ、一つ。
 温もりを、感じたかったから。
「マスター……、もっと……マスターを感じたい…、………」
 強情で初心な躰は手淫により切なげにしてみせるものの、やはり緊張で強ばっている。
 一方に背けられ、きつく閉ざされた眦には涙すら滲んでいた。
「………」
 絶頂へ導くために口腔での愛撫を試みようとするクラレンスだったが、性急過ぎる行為は恐怖心を煽るだけだと思いとどまる。
 そう、っと。
 弱い場所を攻め立てていた指が離れ、宥めるような接吻を――繰り返した。
「……、ッ…クラレン…ス?」
 激しく、何物かに駆り立てられるかの如き愛し方をしてきた貴族的な容貌の青年の、その触れ方が、先程までとは明らかに違うのに気づき、マスターはうっすらと濡れた瞳を覗かせた。
 深い闇色を湛える涼しげな眼差しは、今や情欲と恐怖とに泣き濡れて、凶悪なまでに艶めいていた。その怯えた様子が例えようもなく、捕食者の心を揺さぶる。
(……マスター…、…かーわいい…)
 口にすればおそらく、今以上に顔を赤く染め上げて、潤んだ瞳で睨まれてしまうのは目に見えている。なので、賛美の言葉は胸に秘め、そっと愛しい人の瞼にくちづけを。
「…優しくするって……、…約束したものね。
 ……泣かないで…」
「なっ、……いてなんか…ッ」
 一目瞭然な状況にも関わらず虚勢を口走る姿勢は、強情を通り越して頑固だ。可愛すぎて、口端が思わず弛んでしまう。
 涙の跡を辿り、微かな吐息と共に口唇が首筋まで落とし。
「………ん。」
 耳朶の裏辺りをキツク吸い上げると、いい感じで反応が返り、クラレンスは端正な面を恍惚とさせた。
 肩の辺りに幾つもの跡を残し、顎の下辺りの柔らかな部分にも軽く牙を剥く。
「…………ッ…、…」
 先程とはうって変わった焦れったいほどの前戯で、次第に緊張も解れ始める。
 上々の結果に満足して、上等な猫のイメージの青年は、白い肌にぷくりとたちあがるしこりをくにりと摘み上げた。
 親指の腹と人差し指の横腹で挟み込むと、絶妙な加減で揉みしだく。
「……は・…ぁ…」
 甘やかな快楽の波に浚われる黒髪の人形師は、己自身気付かぬままに切ない吐息を繰り返し、その都度に、クラレンスの理性は断ち切れそうになっていた。
(…ビギナーなマスターのためには仕方ないけど………これじゃ、蛇の生殺し……)
 と、若さ故か己の内の猛る欲望と葛藤する恋人は、濃厚な蜜を含んだとろける黒の視線
に気付いて、優しく様子を窺った。
「マスター? …辛い…?」
 すると、全身を朱に染め上げたマスターは、切な気に何度か瞬きを繰り返し、躊躇いがちに、細い両腕を前へと差し出した。
 意図は計りかねたが、反射的にその腕の中へと飛び込んで、クラレンスは間近に黒曜を覗き込む。
「…マスター、……愛してる…」
 ぎゅ、と、抱きつき甘えると、自然な所作で背中へと回された『抱き留める腕』に力が籠められた。
「………………好きにしていいから。」
「? マスター?」
「……気、…遣ってるだろう…?
 …………さっきみたいに、……っても……構わないから……」
「――けど、マスター…」
 意表を突かれる提案は、正直な処、諸手をあげて歓迎すべき程に有り難かった。しかし、実際行動に移せば、マスターの慣れない躰により以上の負担が掛かる事は明らかだ。
 だが、豪奢な美貌の青年は、直後耳元に囁かれた――懇願に。
「……お前を…、……ちゃんと………感じたい……
「………っ、!!」
 暴走、した……。



 時を忘れ、我を失い、差し出された贄をしゃぶり尽くした気ままな紫猫は、夜の闇と静寂に支配された世界を乱さぬよう慎重な足取りで、そうっと気高き人形師の疲れた躰をベッドに横たえた。
 白いシーツに全身をくるまれ、青白い肌のまま昏々と眠りにおちるその姿は、精巧な人形のようでもあった。
(さて、と。
 マスターの部屋、片づけないとな。……凄い事になってるし)
 先程まで官能的で淫靡な一時を過ごした場所は、情交の跡を強く残し、なかなかに凄惨な状況だった。その為、マスターを抱き上げ子ども部屋へと移動させたのだ。
(すまない、マスター。今晩はこっちで休んで)
 額へ触れるだけの優しいキスを落とし、クラレンスは名残惜しげにその場を離れようとするが――ふと、寝台の端へ追いやられた『何か』に目を留めた。
(……人形?)
 暗がりではその価値の程までは判別出来ないが、そう、高価な物でもなさそうに思えた。
 何気なく手を伸ばして――、
 指先が触れた瞬間に、パシッ、と空気の裂ける音がしたかと思うと、
(………………消えた???)
 弾けてしまった。
 しかし、その残骸すら無く、まるで最初から存在していなかったように。
 不可解な現象に暫く己の手を凝視していたクラレンスだったが、マスターの小さなうめき声で我に返った。
(…ま、別にいいか。
 それより早く部屋を片づけて……マスターの隣りに眠ろう)
 奇妙な出来事ではあったが、高貴な容貌の青年に心は手に入れたばかりの至玉の事で一杯なのだ。早々に考える事を止めてしまう。
 そして、穏やかに寝息をたてる恋人の寝顔を愛おしげに見つけると、クラレンスは物音で安らかな眠りを妨げられぬよう、細心の注意を払い扉を閉めたのだった。




想いが叶えば、その先に待っているのは当然…
とまぁ、えっちですよ。最後まで描写してませんが、エロってます。
クラレンス攻めってなんだか新鮮ですね。