act.1 予兆
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リヴァイアス。
黒のヴァイア鑑。
閉塞された空間、抑圧された感情、届かない明日に壊れてゆく人のココロ。
絶望と狂気と愛憎が、無限の連なりとなって渦巻く艦。
それが、リヴァイアスでの全て。
それが、黒のヴァイア鑑での逃亡生活がもたらした全て。
多くの人々にとって、リヴァイアス号事件は既に過去の出来事となり果て、口の端に昇ることもまれとなっていたが。リヴァイアスでの八ヶ月以上も放浪を余儀なくされた子ども達にとって記憶の風化は、未だ無理な相談だ。
……それほど、鮮烈な記憶を抱きながら。
しかし、彼らの多くは戻ってきた。
傷跡生々しきその艦――黒のリヴァイアスへ戻ってきたのだった。
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リヴァイアスが地球を出立してから、三日が過ぎた。
初日こそ慌だたしい喧噪に包まれていたが、ようやく辺りが落ち着きを取り戻しつつある。しかし、部署の移動があったり、シフトの交代が徹底がされていなかったりとあって。食事の時間帯や風呂の時間帯に人が集中してしまい、それぞれごったがえるのは仕方がない。
人、人、人。
ウンザリする混雑の中、食事の乗ったトレーを手にしてウロウロしているのは相葉昴治だ。
控えめな性質の所為で余り目立たないが、すっきりと可愛らしい顔立ちと温厚な性格にはファンも多い。新たな旅立ちを迎えた黒のリヴァイアスでも、特に有名な人物の一人だ。。
本人には全くその自覚はないが、その天然で謙虚な姿勢が良いのだと、最近は人気に拍車が掛かっているようだ。
「はぁ〜、困ったな。え・と…、どっか空いてないかな…?」
ちょこんと小首を傾げて途方に暮れる仕草が、まるで愛玩用小動物を連想させる。凶悪な可愛いらしさに当てられたファンその一が、がたんっと椅子を蹴倒す勢いで立ち上がった。
「ここ開くからっ、どうぞ使って下さいっ!!」
両目をキラキラさせて申し出てくれるのはニックスと同じ年頃らしい少年。残っていた食事を慌ててかっこんで、いそいそと退いてみせる。
「ごめんな、ありがとう」
嬉しそうに昴治が礼をいうと、お子ちゃまは天にも昇る心地で勢い良く首を横にふった。
「いいんです!! 俺、もう食べ終わるころだったし!!
……でも、あのっ。そのっ、相葉先輩っ、俺!!」
そのまま流れに任せて告白でもしようかと考えていたのか、握手でもお願いしようと思っていたのか、それは本人のみぞ知る、だ。なにせ、ファンその一の少年は何か言いかけたままの姿勢で、視線を昴治の後ろにやったままサーッと青くなってしまったから。
「?? どうかした?」
つられて昴治も後ろに視線をやると、にーっこりと満面の笑みを浮かべた親友が立っていた。
「やほ〜ん、コージくん♪」
「あれっ、イクミ? どうしたんだ、パイロット組はまだ業務終了じゃなかったんじゃ…?」
「ま・ね。一度食事休憩だよん♪」
穏やかに会話をする二人を前にして、少年は居たたまれない。が、リヴァイアス名物衆が一人、VGメインパイロットの尾瀬イクミからのプレッシャーを受け、蛇に睨まれたカエルの心地だ。全身の汗腺から冷や汗が噴き出るのを自覚して、今すぐにでも、全速力で、この場を離れたい衝動に駆られる。
「しっかし、人も多けりゃ虫も多いよな〜、ここは」
「虫?」
不思議そうに辺りを見回す昴治には全く意味が通じていないが、彼以外の人間には見事に正確に伝わった。
不穏な空気を感じて、周囲半径一メートル以内の人間がトレーを手に、そそくさと立ち上がって避難を始める。
「………??」
「ま、それはともかく。席も空いたことだし、一緒に食べようぜ昴治♪ 俺、飯とってくるわ」
「え、あ、うん」
何やら訳が分からない様子の優しい栗色の髪をした少年を、半強制的に席に着かせる確信犯尾瀬イクミ。そして、ファンの少年の横を何気なく通り過ぎるが、すれ違い様に『今度近づいたら瞬殺ね?』と囁くのを忘れない。
哀れ、少年は、真っ青どころか真っ白な顔色をして立ちつくした、が。それを心配した昴治が遠慮がちに声をかける。
「君、顔色悪いよ…? 平気? 医療室に行く…?」
「えっ!? あ、いいえっ!! 大丈夫で……。…………!」
現金なモノで、それだけで直ぐに舞い上がる下級生だったが。瞬間、不敵に微笑む尾瀬イクミと視線が合う。その顔に『瞬殺決定v』の文字が浮かんで見えるのは、消して気のせいではないだろう。
身の危険を感じたらしい少年は、本能に従いその場所から脱兎の如く逃げ出してしまう。
「ちょっ! ………?」
こういう類のやりとりにはどこまでも鈍感に出来ているらしい昴治が、しきりに小首を傾げているが、その疑問を晴らしてやろうとするチャレンジャーはここに、一人もいない。
皆、一つしかない命は大事らしい。
昴治が少年の一連の奇妙な行動について不思議に思っていると、陽気な親友が肩を抱いてくる。イクミの過剰なスキンシップは既に習慣化していて、今更厭がることもない昴治だ。
「こ〜じっ♪ 早く食べようぜっ♪」
「わっ、もー。急に後ろから抱きつくなよっ、驚くだろっ」
なら、急にじゃなければいいのかという感想を、周囲の人間ほぼ全てが同時に持ったが、それはともかく。
二人は隣り合って座ると、とりとめないことを話しながら食事をする。
「VGの操作の方はどう?」
「なかなか良好だよん♪ けど、メインが決まらないのがな〜」
頭を抱えるようにしてぼやく親友に、苦笑を浮かべながら宥めるのは気も優しくて可愛いその人。
「しょうがないよ、大変な部署なんだし。
けど、前のほら、あいつらは? メインをやってた…」
「あー、あいつらは〜、ダメッ! あの時は緊急事態だったからやったけど、今度はもうやりたくないってゴネちゃってさ〜。ま、特殊な部署だし、イヤな気持ちわかんないでもないけどね」
昂冶はイクミの言葉を意外そうにうけとめ、ぱちくりとすると少し考え込む。
「…そっか。他にやりたがるヤツは……、あ。ニックスとかなら!」
「こ〜じくぅ〜ん」
無邪気な友人の提案に、思いっきり脱力してしまうパイロットの少年。
「やりたいからって誰にでもパイロットを任せるわけにはいかないんだよ〜。ニックスは勉強不足だし、何よりVGの重要性を理解してない。そんな人間にメインを任せられないって」
そっか。と、納得する昴治に、そうそうと相づちをうつイクミ。
「あ。」
と、キーンという甲高い金属音とともに、イクミが握っていたフォークがおちる。ひょいひょい振り回していたせいで、弾みに取りこぼしてしまったらしい。
「ありゃりゃん、ちょっくら交換してくるわ」
そういってイクミが席を立つのを、昴治は視線で見送って、そうして目を見張った。
視線の先には、VGのエースパイロット。リヴァイアスの名物男の一人、乱暴な性格とぶっきらぼうさが意外に人気の高い少年。天才の誉も高い、相葉祐希なる人物……血の繋がった、弟が、いたからだ。
(祐希…、そっか。パイロット組は全員食事休憩だもんな、いて当たり前か…)
リヴァイアスに搭乗してから、実に三日ぶりの弟の姿。ブルーと喧嘩をした話を小耳に挟んでいたので心配してたが、大したこともなさそうで安堵するお兄ちゃん。
昴治は事件当時の役職を周囲の人間に嘱望されたために、そのままなし崩しにオペレーターを受けもっている。役職からして、VGパイロットとは接触の機会もありそうだが、ここ連日の慌ただしさから全く顔をみることもなかった。
遠目でよく分からないが、あちこちに細かい傷と手当のあと。今度は何をやらかしているのかと、心配性のお兄ちゃんは気をもんでしまう。
(戻ったらイクミにきいてみるか…何か知ってるかも)
リヴァイアス号事件後、確実に相葉兄弟の関係は変化した。
兄である昴治は弟自主性と個を認め、成る可くの干渉や口だしをひえるように、弟の祐希は無闇な反発を自重するようになり、荒すぎる気性が落ち着きを得つつあった。
無論、だからといって最悪だった兄弟の仲が完全に改善されたわけではない。互いの苛立ちから距離をとっていた以前とは、在り方が全く違うことは当事者である昴治にも感じられていたが、それでも……今更、と思ってしまうのも本音だろう。
いがみ合いたいわけではない、出来ることなら昔のように――とまではいかなくても、世間一般的な兄弟仲程度にはこじれた関係を修復したいと願っている。けれど――…。
(方法が…わかんないんだよな。アイツの考えていることもわからないし、こういう状態がよくないってのはあっちだって考えてるだろうけど…)
しかし一方で、あの弟がわざわざ距離を縮めたいと思っているかどうかは、甚だ疑問である。今の弟の様子を見る限り『兄(じぶん)』の存在など必要としていないようにしか感じられない。
確かに、祐希は全てにおいて『兄』どころか同じ年頃のその他大勢の人間と比較してみても、なんら遜色する部分がないどころか。非常に突出した能力を持ち合わせている。強い人間なのだ、助けなど、……少なくとも自分の支えなど断固として拒否してみせるだろう、と。
(ほっとくしかないよな…ほっとくしか……)
と、結論づけてはいるのだが。
不器用な性格をした実弟がやらかす無茶が、気にかからない事はない。寧ろ、視界のにいれないようにすれば余計に意識してしまい逆効果にしかならないのが現実だ。
「……ばか祐希。
切ってるじゃないか。ほんとに…大人しくしてらんないのかよ」
年中『喧嘩大安売り』ののぼりをあげている弟の左頬の、刃物のような傷跡に表情を苦くして悪態をつく。気苦労の多さからか、溜息は底なしに重い。
相葉兄弟は、兄、弟ともに器用な生き方が出来ないらしい。
「だ〜れがバカだって?」
「!!?
………イクミ。後ろから急に話しかけたりするなよな。驚くだろっ」
独り言を聞かれた気恥ずかしさからか、ほんのり目元を赤くして隣に座り直すイクミを軽く睨み付ける昴治だ。
「ごめんごめんっ、で? ナーニ見てたのかなぁ、昴治くんは」
悪びれた様子のないイクミが、揶揄りながら友の視線の先を追った。
「なっ、なんでもないよ!!」
慌てて取り繕う昴治だが、既に遅い。祐希の姿をしっかりと発見して、スッと剣呑な目つきをしてみせるイクミだ。
「なんだ、反抗期の弟くんじゃん。ほーんと、コウジくんったら、弟に甘々…」
「そんなんじゃないよ…。やめろよな、そういう言い方」
「はいはーい」
妙なことを言い出して、親友の不興を買うのは得策でないと判断したのだろう。イクミはあさっり引き下がる。
大人しく席についたイクミに安堵しつつ、昴治は気にかかっている弟の怪我について尋ねた。
「あのさ、……イクミ。尋いていい…?」
「ん? なになに? なんでもどうぞ」
「……祐希のことだけど、ここ。」
己の左頬をなぞって、物言いたげな視線を投げかける子鹿のような存在に、イクミは心中複雑だ。
昴治に頼りにされれば、乾いた心が幸福感で満たされる。
それは、本当に嬉しいことなのだ。他の誰よりも、近くにいられる。それだけで。だけど――…。
(面白くない、よなぁ。俺としては…、はぁ。もー、しょーがないなぁ……)
昂冶が他の誰かを視界に入れることすら許容出来ぬというのは、狭量というものだろうか。
自分ではない、他の存在と共にいることさえ、耐えられない。
例えそれが血の繋がった肉親であっても、心を砕いている姿は、凶暴な気持ちを呼び起こさせる。無理矢理、こちらだけを向いているように縛り付けてしまいたい衝動。
「………喧嘩、したみたいだぜ。相手がナイフもってたらしくて、ま、結局実力差がありすぎたんで大したことにはならなかったみたいだけどね」
「ナイフって…、なんだよそれ…」
顔色を無くす昴治に、イクミは事も無げにする。
「ん〜、でも祐希の方から喧嘩を仕掛けたって話だぜ。4〜5人のグループになってた奴ら挑発して、多対一の乱闘騒ぎ。ブルーが仲裁に入って、ってか、喧嘩両成敗でどっちもノされたんだけどね」
イクミの説明をきいて、呆れるやら心配するやらで表情を強張らせる『お兄ちゃん』。
「なにやってんだよ祐希は…、初日はブルーに喧嘩売ったらしいし、あいつはここに何しにきたんだか……」
「喧嘩じゃないの?」
ケロリと返されて、脱力する昴治くん。
「も〜。……ま、大したこと無いならいいけど…アイツだってガキじゃないしな」
到底納得した様子ではないが、それでも自分に言い聞かせるようにして昴治は会話を切り上げた。その潔さに、おや? と疑問を感じるイクミ。
「随分またあっさりと。
なに? とうとう弟くんの面倒がイヤになっちゃった? お兄ちゃんとしては」
まー、あの暴走弟くんをフォローするのは確かに大変だよなぁ、と一人で結論を出す友の言い草に、違うんだけどね、と微妙な否定をして昴治は苦笑した。
「今まで祐希のことずーっと、『俺の弟』って気負いがあってさ。あいつがどんなに凄くなっても『弟のくせに』って。
けど、そういうのってよくないなって…思ったんだ俺。祐希が俺の弟ってのはこれから先も変わらないけど、それにこだわらないでいよう…ってさ」
穏やかに。しかし、力強く決意を語る昴治に、ふんふん、と相づちをうつイクミがつまらなそうに感想を述べた。
「つまり、責任とか義務とかは放棄しないんだ。なーんだ」
「なんだって、なんだよそれ……」
「いーえ、別にこっちのことデース」
釈然としないままの『お兄ちゃん』に、弟くんの喧嘩三昧の原因が、自分をかまってくれない兄に理不尽な苛立ちを覚えているためだと教えてやるつもりは、毛頭ない。
確かに祐希は無茶をする性格だが、今の彼の行動は常軌を逸っしている。半ば、自棄となっている風にしか見えない暴走の理由が、兄の『弟離れ』からくるものだとは。おまけに、当人同士は全くその事実に気付いていないのだ。
(聡いんだか鈍いんだか…妙なとこだけそっくりだなよな〜。ほんと、この兄弟は)
二人、やはり血が繋がっているのだということを奇妙に再確認してしまうイクミ。
「は〜、それにしてもVGのメイン・パイロットなかなか決まらないんだよね〜っ」
付け合わせの温野菜をつつきながら、現パイロットの少年が唸った。
「でもカレンもいるだろ、彼女は…?」
「そーれが、部署移動申請しちゃってるんだよね、彼女」
「あれ? そうなんだ。」
「なんでも、他にやりたいことあるってさ。あれだけ祐希にアプローチしてたのに、ふられたかな」
男にそっぽを向かれたからといって、自分の人生の姿勢を変えるような浅はかな女性ではないので、あり得ないことと思いつつもイクミは呟いた。
「…カレンはそういうタイプじゃないと思うけど? けど、そっか。移動したんだ彼女」
かつてVGパイロットであった快活な少女のことを軽くフォローして、昴治は可愛らしい顔を顰めた。
「祐希くんと二人っきりでメインをやれってのは、ちょいとね〜。
艦の作業だけなら問題ないんだけどね、ホラ有事の時ってやつ? 色々と、さ」
「? ……どういう意味?」
「う〜ん、ここじゃ、ちょーっとマズいかな。詳しいこと話すからさ、今夜部屋に行っていい?」
「………わかったよ」
イクミの提案をすんなり受け入れて頷く昴治は、けどさ、と付け足した。
「パイロット、本当に誰もいないのか…。なんか意外だよな。なんか俺、ニックスのイメージ強くてパイロット部署なんて誰もがやりたがると思ってた」
「矢面だからねぇ、いろんな事の。やりたがんないっしょー、やっぱ。
………って、あ!」
何かを思いついて動作を中途半端に止めるイクミを、不審そうに見つめるのは純朴な性格の少年だ。
「あー、あー、あー。いたいた、いた。そういえば一人だけいたな〜、志願者ってやつ」
「え? どんなヤツ?」
誰もなりたがらないリヴァイアスの『花形』、VGパイロットを自ら望む人間の人となりに当然興味深気にする昴治。
「さぁ? まだ会ったこともないし。けど、マトモな精神じゃないと思うぜ? なーにせ自殺願望者だし」
「………イクミ?」
「まー、俺みた自己犠牲精神に富む立派な人物かもしんないけどな。それか、マニア一歩手前とかな。祐希とか、けっこーヤバイんだぜ? VG動かしてっと、かなり楽しそうにしてるしねぇ」
からっと笑ってみせる親友に、昴治は釈然としない気持ちを抱えたまま黙り込む。
「でも、ま、確か名前は『レイン・シルエ』っていってたかな?
休み明けに部署移動してくるから顔合わせはそんときだな。気のいいヤツだといいんだけどね〜、なにせリーダーがアレだし。もう面倒事は御免って感じだよん」
余計な波風をたてる少年のことを思い起こしてイクミがぼやいた。望むと、望まざると同じVGパイロット部署をつとめる以上、祐希の起こしたいざこざに巻き込まれる可能性は大、だ。
そんな親友の様子に苦笑しながら、昴治は呟いた。
「……けど俺、祐希がVGのリーダーっての、すごーく意外かも。そりゃ実力はあるけど、上からすれば扱いやすいタイプじゃないだろ、祐希って。政府の方から決定されてたって聞いたんだけど」
「決定っていっても、申請書さえだせば簡単に変更できるんだけどね。祐希くんもまんざらじゃないみたいだし?」
なにより能力がある、と断言するのは、その祐希と数々の修羅場を乗り越えてきた存在である友。
「性格に難があっても、他に適格者はいないし、って苦渋の選択じゃない?
………まぁ、俺もだけどさ」
自らを卑しめる言葉で嘲笑を浮かべるイクミに、心優しき隣人は静かな怒りで彼を咎めた。
「………そういう言い方よせよ。他の奴らからすればそうかもしんないけど、でも、……俺はイヤだ」
「…? 昴治?」
穏やかな友の、突然の怒りの理由が思いつかず狼狽えるイクミに、更に昴治は言葉を重ねた。
「お前のこと悪く言われるのイヤなんだよっ、悪いか!」
流石に周囲の目を気にしてか、かなり小声の訴えで、しかも照れのためにぶっきらぼうに言い放たれたその、言葉。
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目眩がする程の幸福感。
満たされる、充足感。
かつて、呪った神の存在に
今はこんなにも素直に感謝を捧げられる
そして、…祈りを――。
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「ごめん、もう言わない」
「ん。」
「………休憩時間終わるからいかないと…」
「…うん、頑張ってな」
「テキトーに頑張らせてイタダキマス♪」
「適当かよ?」
「適当でしょ?」
顔を見合わせて、どちらからともなく自然に笑みが零れる。
「ンじゃ。今夜行くから待っててね〜、昴治くん」
「ああ、分かったから。早く行ってこいって」
何処までも飄々と。
心に暗澹とした闇を抱く少年は友を後にし、立ち去ったのだった。
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2007/07/14 加筆修正