キスと愛情

 接吻を交わしたのは、本当に、衝動的に。
 好きだとか、愛しているとか、そういう途中経過を全部一足飛びで追い抜かして。ただ、熱を分け合いたかった。ただ、温もりを与え合いたかった。それだけ。
 正気に戻ってしまえば、そんな言い訳は通用しないのに。
 動物的な本能で求め合って、どうしようもない位。
「んっ、ふ……、ふぅ」
 甘い吐息がキスの合間に零れ落ち、ブルーは雄の部分を刺激された。
「はっ・ぁ……、ン・もっっ……」
 初めのうちこそ、口唇を軽く合わせるだけだったはずのそれは、次第に激しさを増し、一方的になる。
 人肌の温かさの粘性のそれの口内への侵入を許し、蹂躙を受け入れる昴治に気分をよくする蒼の野生は、更に深い繋がりを求めてゆく。
「昴治……」
「んっ、…………、ぁ、ちょ・ンっっ」
 背筋をなぞり上げる指先に、ぞわりとした何かを感じて脅える獲物に、ブルーは満足気な笑みをゆったりと貼り付けた。
「ぶ、るぅ……、ダメ・ッ、ま・って……」
 流されそうになる自分を叱咤して、なんとか昴治は一線を踏みとどまった。かすかなそれではあるが、無理強いを良しとしないのか、ブルーは行為の手を休めてくれたから。
「………止めておくか?」
「……………………う、えと、その……ゴメン」
「何を謝る」
「だ、だって……そのっ、俺、……襲っちゃたし……。急に、こんなことして……ホントにゴメン」
 客観的にすれば、この場合昴治の方が襲われたというべき状況だと考えられるのだが。年上の責任感からか、アタフタと落ち着かない様子ながらもとりあえずブルーに対して謝罪をする少年だ。
「構わん、なんなら続けるか……?」
 どこか艶然とした表情で誘い文句を口にするブルーだが、昴治は真っ赤になって固まってしまう。
「つづけ……!? あ、いやっ。」
「嫌なら構わん」
「え、いやっ。嫌じゃなくて、そのっ、えとッ」
「……嫌じゃないなら、続けるぞ」
「え? へ?」
 強引に承諾を得て昴治に迫るブルーである。半ば、パニックに陥っていた心根の優しい少年に、迅速な状況把握などできるはずも無く。
「う。んむっ……」
 性急な口付けにふいをつかれる形となって、対応が遅れた。
(〜〜〜っ、だ、ダメだッ。このままだと、なんだかヤバイ気がする〜〜〜っ)
 何がヤバイって、先刻の乱暴には嫌悪しか感じなかったはずなのに、華麗な蒼の獣に触れられるのは決して不快ではないのがヤバイのだ。
 互いにの濡れる唇がやけに淫靡だ。
 このまま、どうにかなってしまいそうな危機感に追い立てられるようにして昴治は、ブルーの胸を軽く叩いて抵抗した。
 すると、却って拍子抜けしてしまう程に、獣はあっさりと獲物を手放した。
「………なんだ?」
 実に簡単に息を上げている、色事に不慣れな少年とは対照的に、ブルーは場慣れした様子でいる。
 なんだか、無償に悔しい気分を味わう昴治である。
「なんか…………慣れてる。ブルー……」
「お前よりはな」
「…………」
 慣れてなくて悪かったな、と。言わんばかりに眉根を寄せる茶金の髪をした少年に、ブルーは苦笑した。
「……お前はそれでいい」
「? どういう……?」
「こんなもの、自慢にならん……」
「そう……かな」
 納得いかない様子で口篭る昴治の細腰を引き寄せて、ブルーは口唇を耳元へ寄せる。
「それに、……慣れたければ、慣らしてやろうか」
「!!」
 天然記念物並に鈍い昴治だが、流石に事の後なのでブルーの意図を瞬時に察して耳たぶまで赤くする。
「……慣れてみるか?」
 さらに、トンデモナイ提案を持ちかけてくる油断のならない年下に、昴治は思いきりかぶりを振った。
「いっ、いいからッ! ちょ、まってまってまってっ!!」
「…本気にするな」
 慌てふためく様がなんとも愉快で、蒼の逃亡者は両肩を小刻みに揺らせた。
「!?」
 揶揄られた事実に気がついた昴治が、一拍遅れて憤慨も顕わに抗議の声をあげる。
「ブルぅ〜?」
 困ったような、少しだけ怒っているような、微妙な表情で見下ろしてくる、が。
 その両の瞳が驚きと恥ずかしさで潤んでいることと、表情が熱を持っていることで、なんとも可笑しな気分にさせられる。
 これが無意識なのだから性質(タチ)が悪いと言うのか、意識外だからこその媚態と言うのであろうか。それはひとまず、よいとしておこう。
「……お前は、それでいい」
 お前は、そのままで在れば、いいのだ。


2007/7/4 レイアウト修正
今も昔もこれからも昴治君まっしぐら