※死にネタが苦手な方はご遠慮ください※






ほーむへ




「米良が、"R"のエージェントだった事は、知っているか?」
「……初めて耳にする名前です…」
 虚ろに応じる声の、意味が、意図が、意義が、ひどく遠い。
「なら、GHOST(ゴースト)ってのは? 
 お前らみたいな表稼業専門でも、多少は耳にしたこと位はあるだろ」
「………」
 地下にそのような存在があると。
 嘘か真か、推測の域を出ない噂は確かに流れていた。
 どのような組織でも、"ひと"がそこに在(あ)る以上。
 活動の痕跡を消しさる事は不可能だ。
 ――というのに、その組織は。
 塵ひとつ現世へ残さぬ徹底ぶり。
 依頼のシステムの独特で。
 "受ける"のではなく。
 依頼の可能性が高い人間を選んで。
 "提案"をしにゆく、のだと。
 存在するかどうかすら怪しい薄気味悪い組織だ。
 半ば都市伝説のような、それを。
 "GHOST"、と。
「…その、ゴースト、ってのが、"R"だ。
 そして、米良はそこのトップエージェント、だった」>
「………」
「幽霊の分際が、のこのこ太陽の下を歩いていちゃ、具合が悪いだろ」
「………」
「都合が悪けりゃ、どうすればいい?」
「………」
 単純だ。
 明快な理屈。
「けどな、相手も馬鹿じゃない。
 憑落ちの男、しかもトップクラスだった米良にヘタに手を出せば――、
 手塩にかけたエージェントを大量に失う危険性がある」
「………」
「かといって、憑落ちを見逃す選択肢は無い。>
 沽券に関わる問題だからな」
「………」
「雪豹(パンサー)の存在は、ゴーストにとって最大の泣き所だ。
 逃げだしたエージェント一人マトモに始末出来ずに。
 あまつさえ、数年間も生かしたまま、なんてな。
 笑い草もいいとこだろ」
「………」
「そこで、お前が奴らに目を付けられた」
「………」>
「…方法は色々あるさ。催眠、暗示、薬物。
 連中の常套手段だそうだな。
 どうやってお前を操ったのかまでは…、特定出来なかった」
「………」
 静寂の帳(とばり)を敷いたように、ひたすらの沈黙が流れた。
「………」
 ヤケに、頭が重い。
「……巧美さん」
「なんだ」
「…米良は…、
 どうして…、……逃げなかったんでしょうか…」
 何故、俺を撃たなかったのか、なんて。
 莫迦な質問は流石に呑み込んだ。
 そんなの決まっている。
 これが逆の立場でもそうしていた。
 俺が米良を撃てないように。
 米良も俺を撃てなかった。

 ――喩え、自分の命が懸っていたのだとしても。

 ならせめて、
 せめて、俺から逃げ回ってくれれば、なんて。
 そんな俺の甘さを。
 美国の所長は。
 左拳のストレートで吹っ飛ばした。
「……ッ!」
 全く構えていなかったのでマトモに食らう。
 背後にあった待合室のソファの上に背中からぶつかった。
 舌の上に錆の味がじわりと広がる。
 ――口端を切ったのだろう。
 手加減されたとはいえ。
 重心の乗った一撃を受けたというのに。
 不思議と、痛みは感じなかった。
「……た、」
 くみさん、と続けるはずの俺の言葉は、鋭く遮られる。
「米良が逃げられると思うのかッ!!?」
 この人が、こんなに真剣に怒っているなんて、初めてだ。
「組織に操られているお前がッ…、
 ……っ、逃げればパートナーがどういう目に合うか。
 そんな事を云われて、アイツが逃げ回れると思うのかッ!?」

 ………。

 ばかだ。
 真っ暗な心に浮かんだ白い文字。
 ばかやろうだ。
 どうして、アイツはいつも。

「………」

 ポ、

     タ。



 切れた口唇の傷は、  やたらと、   痛かった。





OVER…



また突発的に続きを書いてみました
別に隠す程のものではないのですが…
リンクも分かりやすいですしね
妙に暗黒サイド作品を書きたくなります