※死にネタが苦手な方はご遠慮ください※






ほーむへ




 ――全部してしまおう。

 それは復讐だとか、報復だとか、怨恨だとか。
 そういった類(たぐい)の剥き出しの感情では無かったように思う。
 例えるなら、散かった部屋を綺麗にしようだとか。
 そういう感覚に近くて、だから。
 助けてくれとか。
 勘弁してくれとか。
 そんな言葉が次々に聞こえてきても。
 特に何も感じる事も無かった。

「…おやおや、また派手にやったねぇ…」
「………」
「そう睨まないで貰えるかな。今の君は僕でもゾッとしない」
「…何時も通り、御願いします」
「はいよ、了解」
 かつては米良の掛かり付けとして世話になった闇医者が。
 俺の足元に散らばる肉片を蹴り飛ばしながら、応じた。
 例によって死体の後始末だ。
 路上に放り出したままにしておくわけにはいかない。
 殺すのはいいが、これだけは毎回面倒だ。
「おや、」
「…どうしました」
 無駄口も無く、黙々と死体を検分していた医者が。
 驚いた様子で声を上げた。
 ――死体マニアの裏医者にしては珍しい反応だった。
「うんにゃー、別に大したことじゃないんだけど。
 この子さ、まだ息があるけど。
 どうするの? 殺しておく?」
「………」
 キチンと全部殺したはずなのに、ひとり、生き残りがいたらしい。
 悪運の強い奴がいるものだ、と溜息をひとつ。
 ウェストホルダーから、ベビーイーグルを取り出す。

 ゼイ、ゼイ、ゼイ。

 辛うじて息を継いでいる男――、いや。
 まだ、随分と若い。
 高校生くらいに見える少年は。
 屑共の血に汚れるアスファルトにうつ伏せ。
 鬼気迫る形相で、俺を睨みつけていた。

「……よ、 …、っ くも ……、
 ろ、…して――、やるッ……、 く、……も……」

「………」
 両肩に二発、右足に一発。
 致命傷となるような場所には、一発も食らっていない。
 こんな駆け出し小僧相手に。
 俺の精密狙撃が外れるとは思えなかった。
 浮かんだ疑問、同時に導かれる解答。
 芋虫のように這い蹲る少年の傍には。
 既に絶命した、男の遺体があった。

 ――ああ、庇われたのか。

 ガチ、と撃鉄を起こす音が遠い。
 眉間に銃口を突き付けられ、尚も少年の憎悪は激しさを増した。
 面白い、との悪魔の囁きが耳許を掠める。
「ドクター」
「ん? 何、僕にやらせてくれるの?」
「いえ、彼の治療をお願いします。
 決して、殺さないで下さい、 ね?」
「……おやまぁ、君も随分と趣味が良くなったねぇ…」
 そう言って詰るくせに、欠落品の闇医者は愉しげだ。
 嘲り嗤う様が、まるで死神のよう。
「…助けてやるから、」
 けれど、俺も他人(ひと)の事は言えない。
「俺を" 殺 "しに来い、少年」
 瀕死の重傷を負う少年の目には。
 今の俺は 【人】 として映っていないのだろう。
 振られた賽がどう転がろうと興味は無い。
 俺は、ただ。
 今日も、明日も、その次も。

 全部、殺して。
 全部、壊して。

 ――全部、終わったら……、





KILL ME・・・






"生きる"ことが貴方の望み