※死にネタが苦手な方はご遠慮ください※
"殺" しに来い。
そう嘯いて薄く嗤った男は、正しく狂気の沙汰。
人間(ひと)が、決して越えてはならない一線を。
一足飛びに踏み越えた終焉の地。
落日に蠢く、悪鬼の相を見た。
「………」
「…おや、気付いたかい?」
視界に飛び込む打ちっぱなしの壁。
それを背にして、薄く笑う白衣の男。
「……?」
組織の関係者…じゃ、ない。
少なくとも、オレは見たことが無い。
誰なのか、いや、そもそもここは何処で――、
(…え、?)
ゆっくりと、起き上がる。
手足が鉛のように重くて、抹消が痺れていた。
ぐるりと見渡す。
白いシーツのベッド、白いシャーカーテン、白の――、
どう見ても病院だ。
とすれば、この男は医者なんだろうか。
そうと思えない位、フツウにインテリ眼鏡美形だ。
ちょっと、ヘンタイ臭く思えるのは、何故だろう。
「……あ、あの、 … 」
「うん? おしっこかな?」
「へっ? や、いやっ、違います!
そうじゃなくて、え、と。その、オレ――…、」
小さな子どもを相手の言葉遣いに、ちょっとビビる。
「えと、オレ――…、
思い出せないんスけど…、…その、」
「ああ、それは無理ないねぇ。
致命傷では無かったけれど、かなりの出血が見られたし。
記憶の混乱は仕方が無いんじゃないかな」
「え――、あ、 や。 そ、そうじゃなくて。 …その 」
「うん?」
「自分の名前、とか。何してた、とか。
そういうの、全然―― 」
「おやまぁ」
流石に医者(?)と思われる白衣の男は、驚いた様子で。
ぽかんと口を開けた後、ニヤリと悪どい顔をした。
「ふーん? なんっ…、にも思い出さない?」
「……はい」
じろじろと、白衣のソイツはオレを検分してきた。
――嘘をついているんじゃないかとか。
そういう類じゃなくて。
多分、面白がってる。
こいつ、相当人が悪い。
しかも、マナーも悪い。
おもむろに携帯電話を取り出して、誰かと話し始める。
「ああ、うん、そうそう。
君が助けるように言ってきた子だけどさー。
今、…うん、 うん。そう、面白いことになってるよ。
まぁ、とにかく来てみなよ。 うん、 じゃ? 」
ストレートタイプの携帯を白衣へ仕舞込んで。
そいつは、関係者を呼んだから、と。
愉しげに頬を緩ませた。
悪趣味な笑顔だと、思った。
落っことしてきた記憶が警鐘を鳴らしたけど。
その時のオレには、全く届かなかった。
・・・FORGET
"忘却"は、罪に等しい行為であるのか否か