※死にネタが苦手な方はご遠慮ください※
"殺" し損ねたついで、だった。
仲間に庇われて不様に生き伸びた若い絶望を。
何処まで墜としてやれるのか。
鉄砲玉や弾避け程度にしか使えない。
そんな半人前が仇討(あだうち)を吠えたとして。
所詮はガキの戯言だ。
そう。
だから。
救われた命で敢然と牙を剥く魂を。
徹底的に痛めつけて。
けれど、殺さない。
治療はドクターに任せるから。
障害も残らないだろう。
幾度も幾度も、鉛弾を食らって。
痛みに呻いて。
辛さに喚いて。
狂えば、いい。
「あ、あの…、…すみません、オレ…」
「………」
スーツのジャケットを、無造作に椅子へ投げ捨てる。
ドクターのところから引き取ってきたソイツは。
所在無く視線を彷徨わせながら。
玄関近くで、年に似合わない図体を小さく折り畳んでいた。
「…早く上がれ、目障りだ」
「あ、…は、はい。すみません…」
――厄介な拾いものをした。
記憶を失うなんて、予定外だった。
忘れられるなんて、羨ましい限りだ。
コネとツテ色々調べてみたが。
何の因果か、コレは天涯孤独の身というものらしく。
交番横に生み捨てられていたコイツは。
イマドキ、孤児院育ち。
十三の年には一人前の悪ガキで。
中二で学校を中退、極道の下っ端入り。
典型的なドロップアウト人生だ。
クスリに手を出していないのが唯一の救いか。
余談だが。
コイツを庇って死んだ男とは、所謂義兄弟の仲らしい。
成程、舎弟を体を張って守ったというやつだ。
極道の鏡のような男だったわけだ。
そんなコイツ等の所属していたチンケな組は消滅済みで。
この、思わぬ拾いモノを何処へ捨ててくるべきか。
考えあぐねて、結局ホテルまで連れてきてしまった。
「あ、あの。か、香織、さん?」
「…なんだ」
部屋の中央辺り、応接セットのソファの傍で立ち止まり。
ソイツは困惑した様子で顔をあげた。
――記憶を失っている所為か。
あの時に見せた、抜き身の鋭さは無い。
「その、オレと香織さんってどういう関係だったんですか?
引き取ってもらって、服、とか色々揃えてもらって…。
え、と…その、全然キョウダイとかカゾクとかには見えないンすけど…」
「…知りたいか?」
どうするか、迷うのも面倒で。
投げ遣りに気味に、疑問を質問で返せば。
ギクリと身を竦ませてから、けれど、ソイツは頷いた。
選択したのは、お前自身。
後悔するも、感謝するも、自由にすればいい。
俺はただ、求めた過去(もの)を与えてやるだけ。
「俺はお前を殺した人間だ」
嗚呼、だから。
呆けて無いで、早く、俺を "殺" しに来い。