※死にネタが苦手な方はご遠慮ください※






ほーむへ




 珈琲はブラック、インスタントなので味には煩く無いと思う。
 食事は何時もコンビニ飯だったり、冷凍モノだったり。
 自炊している気配は無い。
 オーダーや外食をしないのは、敵襲を警戒してなのかもしれない。
 時々、銀色の銃――べレッタだと思う――を寂しそうに眺めている。
 部屋を空ける事の方が多い。
 外で何をしているのか知らないけど、大方の予想はつく。
 この間みたいなコトしてるんだろう。
 "理由"は知らない。
 後、俺を"殺し"たらしい。
 ――生きてるけど。
 半殺し――、にしては傷もそんなに無かった。
 そもそも、相手を不必要に痛め付けて愉しむタイプじゃない、と思う。
 目の前の黒髪の男の事で、知ってるのはこれ位だ。
「………」
 酒の類は置いてないから、仕方なく、珈琲を呑む。
 目の前で、黒髪の男――カオリ、さん――は、銃の手入れをしている。
 銀色じゃなく、黒。
 あまり詳しくないけど、多分、イーグル?
 二丁拳銃の遣い手らしくて、ふたつ、ある。
 ひとつずつ丁寧に内部を洗浄している、指先が、綺麗だった。
「………」
 変態医者のツテで頼った探偵に身上調査をしてもらったけど。
 どうやら、俺は天涯孤独というやつで。
 それまでは有名な組傘下のちゃちな事務所でチンピラ稼業。
 カオリ、さんは、俺が世話になっていた事務所へカチこんだらしい。
 さっきも言ったけど"理由"は知らない。
 探偵はそこまで教えてくれなかった。
「……なぁ」
 暇。
 テレビもネットもキョーミ無いし。
 別に、このホテルを出てもいい、けど。
 "殺し"に来い、って嗤った、カオリさんの言動が引っ掛かる。
「………。なぁ」
 無視されるのはデフォルトなんで、もう一度呼び掛けてみる。
「………」
 ここで、もし襲い掛ったら勝てるのかな。
 今なら丸腰だし、フツーに俺の方が腕っ節ありそうだし。
 不意討ちなら、押し倒せそうな気がする。
 小さいし、細いし、全然イケるような。
 …襲いかかる意味が無いけど。
 それとも、俺には"ある"んだろうか。
 この人を"殺す"だけの、理由が。
 残念ながらキオクソーシツというやつなんで、分からない。
「……なーってば」
「…なんだ」
 しつこく呼びかけて、よーやく返事を貰えた。
 チラリともこちらを見ようとしない辺りが、この人らしい。
 イーグルの手入れも、もう終わりそうだ。
 プロい手つきに、ちょっと感心する。
「その銃、なんての?」
「…ベビーイーグル」
「二丁ともアンタのだよな?」
「………」
 返事は無いけど、これは肯定。
「アンタ、銃の扱い慣れてんね」
「………」
「何時も、それ使ってんの?」
「何が聞きたい」
 平坦な声、単刀直入にいった方がいいらしい。
「アンタが時々観てる、銀色の銃ってだれ――、 !!」
 右の額と、肩に衝撃。
 上等な絨毯のお陰でそんなに痛みは無かったけど。
 コメカミに銃口の感触。
 ―― 見事に、"地雷" だったらしい。
「楽に死にたいなら、余計な詮索は止めておけ」
「………」
 そこはフツー、死にたく無いなら、だと思うケド。
 カオリさん、無茶苦茶過ぎる。
 絨毯の上に転がされながら、込み上げてきた可笑しさに吹きだした。
 銃口から、怪訝そうな気配が伝わる。
 別に、このまま殺されてもいいけど。
 失くして惜しい命じゃないし。
「…カオリさん、手ぇ離して?」
「………」
「ゴメン、無神経な事聞いた」
「………」
 不意に重みが無くなる、解放されたらしい。
 無罪放免、掴まれて乱れた赤茶けた髪を手櫛で整えながら。
 絨毯の上に胡坐をかく。
 カオリさんは、手入れの済んだベビーイーグルを腰へセットして。
 いつもの黒スーツのジャケットを羽織った。
 また、何処かへ出掛けるんだろう。
 "理由"は知らない。
「…いってらっしゃい」
「………」
 見送りの言葉を掛ける俺に、一瞥をくれて。
 小さな背中が扉の向こうへ消えた。
 けど、予測はつく。

 " 復 讐 "

 陳腐な、けど、破滅的な方向へ人を動かす最たる力。
 銀のべレッタの持ち主の、ひと。
 アンタは、あの人のこんな姿を望んでた?