
#13
「おい、オズ。急患だ!」
随分と勝手知ったる様子で、闇医者の住処へ乗り込んでゆく巧美ちゃん。
俺は、まだ出血の止まらない左肩を。
その血痕を地面に残さないように、スーツで巻き取りながら。
酷く悲しそうな表情で懐いてくるワンコを宥めながら。
尾杜センセの処へお邪魔した。
「ばんちゃー、センセ」
「ああ、連絡は来てるよ。やー、派手にやられたねー」
診察室の椅子に腰をかけた俺の肩の。
深く肉を抉る銃創を観察しながら、センセは愉しそうに言う。
「キミは色白だから、血の朱が似合うねぇ〜♪」
なんか、ご機嫌。
うーん、センセは絶対俺に対してS属性だ。
普段の治療でも、採血の時とか、ウキウキしてるし。
そのうち、このセンセに殺されちゃったりして。
や、どうせなら香織に優しく殺されたいなぁ。
「尾杜先生ッ! そんな呑気な事言ってないで、治療してくださいよ!!」
ふさふさワンコが、キッと尾杜センセを睨んで抗議する。
うー…、やっぱ可愛いなー、恒ちゃん。
「はいはい。怒られちゃったよ。ター坊」
「知るか。それより、早くしろよ」
「おや、ター坊もなんだか不機嫌だねぇ。わかったわかった、じゃ、コレ飲んどいて」
「りょっかい」
手渡されたソフトカプセルを、素直に飲み込んで。
俺は、ほうと一息吐いた。
なんだかんだ言っても、カラダの方は緊張していたみたいだ。
まぁ、ちょっとかなりな出血だし、身体的なストレスは当然だよね。
「米良さん、ホントに俺…ゴメンナサイ」
耳を伏せて、目を潤めて、きゅーんと鼻を鳴らしてくるワンコが。
車の中でも、何度も何度も繰り返した謝罪を口にしてくる。
気にしないでいいって言うのに、キニナルんだよね。
優しい子だから、仕方ないなぁ。
「気にしないでいいよー。そもそも、狙われてたのは俺だし。
恒ちゃんは巻き込まれただけでしょ? 巧美ちゃんたち呼んできてくれて、アリガトね」
「……ッ」
ああ、慰め方間違ったかな。
泣きそうだし。
うーん、コドモの扱い方って難しいなー。
しょうがない、話題を変えよう。
「そーだ。巧美ちゃん。
俺、ケータイで緊急コールかけてたんだけど。会社に連絡してくれた?」
「あ? ああ。社長には伝えてある。
そろそろ香織が真っ青になって駆け込んでくるんじゃねーの」
「わーお。それは楽しみ〜♪」
「……喜ぶトコか?」
呆れ気味の巧美ちゃんの疑問に、だって、と。
「愛されてるって、実感出来るもーん」
えへ〜と、尻尾を振ると、ゴンとゲンコツが落ちてきた。
「いったー…」
怪我人に暴力は酷いと思う。
それも、結構失血してるから、意外とあっさり逝けそうなのに。
「いっそ、死ね。この真性マゾ」
「にににににっ、兄さんっ!! なにしてんだよ!!」
慌てて巧美ちゃんの行動を批難する恒ちゃんに。
だーいじょーぶ、だーいじょうぶと、愛想笑いをしてたら。
ガシャガシャと金属的な音を響かせながら。
手にしたトレイに医療器具を揃えたセンセが戻ってきて、会話に参加した。
「んー? なんだい、ニギヤカだねぇ」
「う…注射…」
如何にも恒ちゃんらしい反応で、ワンコはセンセからちょっと距離を置いた。
「別に恒ちゃんに打つわけじゃないから、逃げなくていいのに」
クスクスと笑いながら、医者としての腕の分だけ。
人間的な何かを欠落させた。
やたらと顔のイイお医者様は、器具を順番に並べなおしながら、尋ねる。
「クスリはちゃんと飲んだかい? 米良君」
「ん? 飲みましたよー」
「フフフ、そうかい。飲んだのかい」
ん? なんか、不穏な空気。
医者に飲めって言われて渡された薬なら、そりゃ飲むでしょ。
「それじゃあ、そろそろカラダが火照ってきたんじゃないかい?
実は今のは僕のとっくせい、先生もうこんなになってダメなの、なエッ〜〜〜ッチなお薬なの…、いったぁーーーーーー!!」
あ、殴られた。
「怪我人相手にアホな薬仕込むなぁぁあああああ!!!」
半泣きで抗議する恒ちゃん。
頬が染まってるのは、きっと、こういう猥談には慣れてないからだね。
うーん、流石箱入り。
巧美ちゃん、しっかり見張ってないと、そのうちパクリと食べられちゃう、…かも…。
「ひっどーぃ! 恒ちゃんが、僕をなぐったぁあああああ!! ドロシーちゃん、うぇーん、うぇーん!!」
「先生、先生」
「なーに? ドロシーちゃん」
「さっさと治療しろや」
「ガァアアアーーーーーン!!!!」
花のような笑顔でグサリを胸を刺す幼女の言葉。
これは…ショック…、な、はず…。
「おー、いいぞ。言ったれ言ったれ、ドロシー」
「酷いや酷いや。ドロシーちゃんだけでなく、ター坊までぇええええ」
突っ伏し泣きする尾杜センセは、そりゃもう…見事に…幼児返り…。
……?
なんだか…、ねむ…い?
「あれ、米良さん…?」
うん、大丈夫。
そんな心配そうな顔…しなくて、も。
ただ、眠たいだけ…だか…。
そこで、俺の記憶は途切れた。
きっと、センセの渡した薬が効いてきたんだろう。
次に目を覚ましたときには、一番に、香織の笑顔が見たいなぁなんて。
最後に考えたことを、覚えている。
オズ先生は、人によってSだったりMだったり。
メラっちのよーな、真性M(マテ 相手には、強気Sで。
ちなみに、ドロシーたんは、三十路越えのオンナなので
センセーが、やーらしいクスリネタを口にだそーが
目の前で、SEXおっぱじめよーが、微動だにしません
流石、三十路越え。イカスね、ドロシーたん☆
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