#17




 尾杜センセのところにお世話になって。
 もう、今日で――三日目。
 俺の大切な大切なパートナーは、今日も姿を見せてくれない。
 とっても寂しいんだけど、香織だって仕事があるんだし。
 仕方ないっていうのはわかってるけど、やっぱり寂しい。
 俺にイジワルをするのが楽しいらしい尾杜センセに。
 唯一の通信手段のケータイを取り上げられちゃってるから。
 最後のエッチ以来、声すら、聞いてない。
「は〜…、もう香織欠乏症で死にそう…」
「そんな愉快なモンで死ねるもんなら死んでみろ。このマゾパンダ」
「あや? やっほーい、巧美ちゃん。おひさー」
「おー、元気そーじゃねーか」
 自称魔性の美少年、他称極悪大魔王の巧美ちゃんのおなーりー。
 うーん、相変わらずご無体だ。
「どーだ? 腕の調子は」
「そーだね〜、ちょっとまだ痛むけど。ヘーキだよ」
 明日、明後日くらいには多分退院じゃないかなーって。
 ぽや〜って答えたら、ふーん、って興味なさそうに流されちゃった。
「――おい、米良」
「ん?」
 土産だって手渡された箱の中身を覗いてたら。
 至極マジメな声で、名前を呼ばれて、ドキリとする。
「マジで、香織と連絡取れてねーのか?」
「んん? まぁ、そだけど。なんで?」
 確かに香織とはここ三日ほど全く音信不通だけど。
「…――チッ」
 面倒そうに舌打ちしてこられても。
 全く話が見えませんよぅ、巧美ちゃん。
 取り合えず、箱から出てきた、手作りらしき牛乳プリンを開けてみた。
 クリームとチェリーでデコレーションされた、器用な出来栄えに感心する。
 絶対、作・正宗くんなはずだ。うん。
「……俺は、あんま他人のコトに首を突っ込むのは好きじゃねー」
「うん?」
 そんなの知ってるよー?
 巧美ちゃんは、確かにとんでもないトラブルメーカーだけど。
 それは、有象無象の万人向け営業用であって。
 ちゃんと向き合った相手には、逆に、手は出さない。
 そゆとこ、好きだなぁって思う。
「俺は、俺がやりたいよーにやるだけだ。わかったな!」
「?? ……うん?」
 こくん、と小首を傾げて見せると、はぁ、と盛大な溜息。
「香織のヤツ、ムチャクチャだぜ」
「……香織が?」
 大好きな恋人の名前に、あからさまに反応してしまう。
「お前を襲撃した組織を調べてるらしーんだが、殆ど不眠不休で働き詰めだとよ」
「――…それは、…」
「テメェのパートナーやられて、ドタマにキてんだろーよ」
「……そ、っか…」
「あのままだと、潰れちま…、ってナニやってんだ?」
 いそいそと身支度を始めた俺に、眉を顰める巧美ちゃん。
「んー? うん、身の回りの整理整頓を」
「……勝手な真似すっと、オズがウルセーぞ」
「だいじょーぶだよー。
 尾杜センセが大事な人は、俺じゃないから。
 だから、へーき」
 緊急手術からそのまま入院で、大して荷物も無い。
 ケータイは、まぁ後から取りに来ればいいし。
 クリーニングの終わっていたスーツに手早く着替えると。
 不機嫌な巧美ちゃんの視線を黙殺しながら、荷物を片手にする。
「…――お前、狙ったヤツも黒幕も大体アタリがついてる」
「ん? そーなんだ?」
 流石、耳が早いなーって感心する。
 普段はフザケテルけど、探偵としての能力は一級なんだよね。
 だから、美国社長も彼らに出資してるワケで。
「背後関係は洗ってみねーとわかんねーけどな。
 お前、まだ狙われてるゼ」
「んー、そっか。
 まぁ…きっとアレだなー。明煉会でしょ」
「ンだ。分かってンじゃねーか」
 ちょっと、意外そうに肩眉を上げる巧美ちゃん。
 そんなに驚かれるのも、心外だなぁ。
「そりゃねー。こんな仕事してるから、ぬかりは無いよー」
「の、割に、しっかりヘタ打ってやがるけどな」
 う。鋭く抉ってくるなぁ。
 むー? なんか、巧美ちゃん機嫌悪いよね。
 なんでだろ。
 そりゃ、恒ちゃんを巻き込んじゃったのは悪かったけど。
 ちゃんと無事だったから、そんなに怒らなくてもいいのになー。
「あそこの幹部と、ちょっと個人的にゴタゴタしててね。
 気をつけてたつもりなんだけど、失敗失敗。
 さ、って。じゃ、俺は行くね」
「……香織のトコか」
「あったりぃー。香織とイチャイチャしてくるんだー。
 じゃ、またねぇ。巧美ちゃん」
 えへー、って幸せ満開の笑顔を振りまいて。
 俺は尾杜センセの診療所を、後にした。



米良の事が心配だけど、それを口に出せない。
徹底した天邪鬼な巧美様が大好きです
そして、自分に対しての愛情を悲しいまでに感じられない
そんな米良が、腹立たしい
おせっかいな感情を持ってしまってる自分も腹立たしい。
なんだか常に不機嫌な巧美サマです
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