
#21
や、困ったなー。
まさかココまでするなんてって、油断してたんだよね。
今時、薬で意識飛ばされてユーカイなんて。
……あ、ダメだ。
色々考えると、気持ち悪くなる。
早く抜けないかな。
クスリ。
「何を考えている?」
「………」
口、開くと吐きそうなんだよね。
だから黙って、ベッドの上で、視線だけ流した。
俺の――かつての、情人。
「真っ青だな。――相変わらず、薬には弱いのか」
分かってるなら使わせないでほしいなー。
酷いよねー。
ま、そういう容赦無い性格にも、昔は惚れてたんだけど。
「どうして、俺の処へ戻ってこない」
「………」
「あの、男の…所為、か」
――半分当たりで、半分ハズレ。
「アイツがいなければ、お前は、俺だけを見るのか?」
……殺すよ?
「――冗談だ。そう睨むな」
俺の不穏な視線に気付いて、両手を挙げる。
おどけたポーズも、シニカルな微笑みも。
スーツから香る、苦い、タバコの匂いも。
とても、好きだった。
「俺は――今でも、俺の隣にいられるのは、お前しかいないと思ってる」
うーん、どのツラ下げて、そういう事言うかなー、この人は。
「戻って来い。米良。
俺はもう二度と、お前を裏切らない」
ダメ、だよ。
俺は、一度でも俺を裏切った奴を赦せるほど。
人間が出来てないんだ。
俺を棄ててもいいのは、香織だけ。
俺に何をしてもいいのは、香織だけなんだよ。
――アンタじゃないんだ。
「何を考えている?」
さっきと、同じ問いかけ。
答えずにいると、今度は、皮の手袋が腰から胸に這い上がる感触。
何度か、尖りの感じやすい場所を掠められ。
昨夜の残り火が燻り始めてくる。
「余程、今のオトコがいいらしいな」
そりゃねー。香織は可愛いし、優しいし、強いし。もう、物凄く大好き。
「そんなにイイなら、俺も味見してみるかな」
……香織に何かしたら、殺すよ〜?
「――フン。いい目だな。
そうだ。お前は、俺の隣にいるときは、何時もそんな目をしていた。
男を惑わし、喉笛を掻き裂く――美しい狂眼」
皮――引きつるような感触が、大きく胸を撫でて、
不意に、感触が離れた。
そして――。
「米良から離れろ」
ドクン、と鼓動が大きく跳ねた。
うわ、何、何?
香織の声、だよね。
声の方に視線だけ必死に動かすと、伊達オトコが、両手を挙げて。
咥えタバコの口端を器用に曲げて、嗤っていた。
「そんなに、カリカリするなよ。ボーイ」
「三秒以内に退け。サッサと行けば、此方も見逃す」
「ッいおい。他人様のシマに土足で入り込んで、その言い草か?」
あー、ダメだ。完全に面白がってる。
思いっきり挑発してるし。
「三秒だ」
うわ、香織機嫌悪い。
コレは――絶対撃っちゃうなー。
って、確信してたら、案の定、低い反響音が二つ。
「――チッ!」
でもって、忌々しそうな舌打ちは、香織のもの。
逃げられた、か。
うーん、困ったなー。
今の遣り取りでピンと来たけど、あの人、絶対香織のコト気に入った。
気紛れなくせに、妙に執念深いから。
「…メラ。無事か?」
あ、香織の声だー。
大丈夫だよ〜、ってちゃんと答えたいのに、ひゅ、と喉が鳴っただけだった。
「――…メラ」
不安そうに、トーンが下がる。
こういう時の香織って、雨に打たれ続けた仔猫みたいで。
ぎゅってしたげたくなるんだよね。
――大抵は、急に抱きつくなって怒られるんだけど。
今は、怒られないと思うんだけど。
恨めしいことに、自由が効かない。
「その様子じゃ、自力で立てそうに無いな。
待っていろ――今、巧美さん達を呼んでくるから」
チウ、って頬に優しいキス。
しあわせ〜、ってニヤケてたら、
その後、直ぐに駆けつけてきた巧美ちゃんに、ゲンコツをもらってしまった。
メラっちは、ヤられちゃってもいいかと思ったんですけど。
乙女な香織たんが、絶対傷つくので、止めときました。
メラっちは、昔のオトコなんで気にしないんですけどネ
でも、香織に手を出したら赦さないよー、とドス黒くなります
お互いの感情の強さが
相手を追い詰めるような愛情の強さが。
彼等の基本です。では、ブラウザは「×」ボタンで閉じてお戻りください