#22




 次に目を開けたときには、自分の部屋だった。
 どうやら、あの後昏睡しちゃったみたいで。
 意識の無い人間ひとり運ぶのってかなりタイヘンだと思うんだけど。

 ……どうやったんだろ。

 妥当に考えて、正宗君が運んでくれたのかなー、やっぱ。
 巧美ちゃんも、あー見えて怪力だけど。
 肉体労働キライだしね。うん。
「…米良。気がついたのか」
 声、きもちいい。
「ん」
「水、飲むか?」
「ん」
 ベッドの感触も、きもちいい。
「起き上がれるか…?」
「…ん」
 まだ、手足の感覚が死んでるから、難しいかなって。
 ちょっと、困ったように応えて、ゆっくり起き上がろうとすると。
 ぐい、と片手で背中を支えられた。
 わー、香織ってば力持ち〜。
 って感動してたら、ぐいって顎を持ち上げられて、唇に、グラスの感触。
 続いて、冷えた水が喉を潤す。
 うまく呑み込めずに顎から喉に伝う水滴を、香織の綺麗な指先が拭ってくれて。
 そんな仕草に、ドキドキしてしまう。
「まだいるか?」
「ん、も、へーき」
「…そうか」
 ゆっくりとベッドに横たえられて。
 まるでお姫様扱いだなーって、クスクス笑ってしまう。
「…なんだ?」
「んーん、香織が優しくて幸せだなーって」
「…普段、余程酷い扱いを受けているように聞こえるが?」
「えー、そんなことないよー。俺ってば香織に愛されてるもーん」
 えへー、ってお花を飛ばして笑うと、プイッと香織が顔を背けた。
 これは、照れている証拠。
 可愛いなー、香織ってば。もう、ダイスキー。
 幸せを噛み締めてると、ギシってベッドの端が鳴った。
 香織が、俺の上に乗り上げてきたからだ。
 無論、カラダを気遣って一切体重は掛かってない。
「米良」
「んー?」
「…まだ、本調子じゃないのに、こういうことを切り出すのは――」
「いいよ」
「……ッ」
 香織の戸惑いを遮って、にっこりと言葉の先を促す。
 すると、逆に香織の瞳が傷ついたように揺れた。
 ――…あぁ、この腕が動かないのが、こんなにもどかしいなんて。
 今すぐ、俺の大切な人を抱きしめたいのに。
「…お前は…」
「ん?」
 優しく、俺の恋人は鈍感なくせに、とっても繊細だから、出来るだけ優しく。
 ゆっくりと、質問を待つ。
 何を言いたいのか、大体の察しはついてるし。
 どう答えるかも、ちゃんと考えてある。
 こんな俺は、やっぱり香織より随分オトナなんだと思う。
 とても汚れた、酷いオトナ。
「…お前は、どうして――」
「……」
「どうして、そんななんだ…」
「……え?」
 はい? って、いう風に返したら。
 切なそうな視線で真剣に見つけられて、一瞬、呼吸が止まりそうになった。
 うーん、香織にこういう表情されると弱いんだよね、俺。
「――…香織?」
 質問の意味が分からずに、小首を傾げる。
 すると、有無を言わさずに、キスされた。
 そっと、羽のように、癒しの意味を込めた口付け。
「今回の件だけじゃない。
――…お前は、何時も…。俺に、肝心なことは相談しない」
 うー、それはだって。
 全部、俺の過去の不始末の結果だし。
 香織をそんな下らない事で、傷つける訳には。
 でも、そんな事言うと、多分また、香織を悲しませるから。
「ゴメンね」
 って、取り合えず、謝っておく。
「………」
 でも、こんな口先だけの言葉ではもう多分、誤魔化せないんだろうなって。
「…米良は、俺より随分年上だし。話せない事も、話したくない事も――あるんだろう」
「…うん。ゴメンね」
「これは――単なる、俺のワガママだと分かってる」
「…香織?」
「分別のつかない、バカな子どもの独占欲だ」
「……俺は、香織がくれるものなら、なんでも嬉しいよ」
 ぎゅ、と香織の綺麗な黒無垢の瞳が痛みを堪えるように、瞬いた。
「――愛してる。メラ」
「うん。俺も、大好きだよ。香織」
 愛想満開の笑顔で返すと、苦さで、香織の笑顔が曇った。
 ……こうやって、俺は。
 大切な人を傷つけることしか出来ないのかな。
 なんて考えたら、クスリの後遺症か、また吐き気が襲ってきて。
 ゆっくり、目蓋を下ろした。



もう、なんだかメロメロな感じです。
香織が好きだから頼りたくないメラっちと。
米良を愛してるから、全てを受け止めたいかおりん。
そんなスレ違い愛。
でも、お互いの愛情だけはやたらと深かったりするといい。
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