
#24
もう、四日。
米良と顔を合わせてない。
指折り数えて、結構キツいものだと。
自身が如何に、あの綺麗で甘え上手な年上に依存していたのかを改めて思い知る。
「…どうしました。お客さん。随分、塞ぎこんでおられるようだ」
「いや、――なんでもないんだ」
「そうは見えませんよ。辛い恋でもしておいでで?」
気紛れに立ち寄ったバーのマスターは、随分と世話焼きな性格のようで。
奢りですよ、と差し出されたグラスを、俺は無言で握り込んだ。
酒は――強い方じゃない。
深く惑えば思考と判断力を奪われる。
身辺警護という仕事上からも、自身を喪失する程の酔いは、致命的な自体を起こしかねない。
分かっている。
だから、普段は殆ど酒を嗜まない。
米良は――見た目に反して…、いや、ある意味見た目通りなのか。
酒を好むし、おまけにワクで、底なしだ。
再現無く流し込んでも、次の日にはケロリとしているから。
ある意味、化物だ。
「……ッ、」
ふらり、と足元が浮いて。
裏通りに相応しい、薄汚れた居酒屋の壁に、肩を預けた。
(――…、なに、してるんだか)
くだらない。
無様だ。
米良から逃げ回って、酒に溺れて。
――最低、だ。
(…きもちわるい)
前のめりにしゃがみ込み、嘔吐感をやり過ごす。
本当に、最低だ。
何もかも、最悪だ。
「おーい。兄さんよ、ヘーキかい」
――…。
「ダメよーん。こんなトコ一人でフラフラしてちゃ」
人の気配が、三つ。
「悪〜い人に、カツアゲされちゃうよ〜ん」
「おまけに、ムシャクシャするからってサンドバッグの刑ー」
「うっわ。お前、それ、ヒッデー」
程度の低い、ただの遊ぶ金欲しさに強奪を繰り返す悪辣なガキ共だ。
この掃き溜めのような街には、そんな連中が大勢棲みついている。
「そんじゃ、ま。まずは、出すもの出してもらいましょーか」
嗚呼。
忌々しい。
機嫌は最悪、気分は最低。
――恨むなら、自分達の間の悪さを恨め。
悲鳴。
命乞い。
血の、色。
調子に乗ったガキに灸を据えた後。
一気に酔いが回って、ずるずると、壁に背中を預ける。
くだらない。
本当に、下らない。
懐の銃が、普段より、重さを主張している。
まるで今の俺に――持ち手の資格が無いと、嘆いているようだ。
「よぅ。随分荒れてンな」
「……た、くみさん」
気配を感じなかった。
此方が、本調子じゃないのもある、が。
それでも、プロ相手に、この距離まで近づける巧美さんが異常なのか。
――単に、俺が不甲斐ないだけか。
「お前、米良から逃げ回ってンだってな。オマケに、バディ解消だって?」
「……」
「だんまりはいただけねーなァ」
「…貴方には、関係の無い事ですから」
「おー。まぁ、その通りだわ。
だーから、この件に首突っ込むのはイヤだったんだよなー」
「………」
他人の事情を引っ掻き回すのはお手の物だが。
面倒に巻き込まれるのは、全面的にお断りな性格の巧美さんだ。
自主的に、俺と米良の問題に口を出してくるとは思えない。
なら――…、
「米良、ですか?」
「アイツ以外いねーだろ。お前を、自分の前に連れて来いってよ」
「…そうですか」
壁に片手をついて、ふらつきながら起き上がる。
「ンなザマで何処に行くんだ」
「…帰ります」
「何処へ」
「……」
少なくとも、米良の気配を感じれるあの部屋には、戻らない。
――戻れない。
「香織」
「………」
「ウチの依頼達成率知ってるか?」
「………」
そんな事。
今更、確認するまでもない。
本当にこの人は――苦手だ。
「…香織」
ぎゅっ、と。
懐かしい匂いに、真正面から包まれて。
こんな時にも、身長差に悔しさを噛み締める。
「逢いたかった」
俺は。
逢いたくなんて。
逢いたい、なんて。
――…もう、何も、選べない。
香織たんは考えすぎて、ドツボにハマるタイプ。
メラっちは、自分の感情に任せてゆくタイプ。
若者のように暴走はしませんけれどね。
考えすぎなかおりんをメラっちが大人の包容力で受け止め。
肉体的にはカオリんが攻めですけど、
精神的には、年上なメラっちが甘えながらも
いっぱり、カオリんを甘やかしているといいです。