#25




 巧美ちゃんたちに手伝ってもらって。
 やっとの事で見つけ出した香織は、酷く、憔悴した様子だった。
 そりゃ、全く喧嘩なんてしない訳じゃないけど。
 バディ解消だとか。
 部屋にも戻らないとか。
 ずっと、避けられてしまったりとか。
 こんなこと、今まで一度も無かったから。
 思い当たる事といえば、一週間前の、例のアレだけど。
「…香織。
 ちゃんと、聞かせて欲しいんだ。
 どうして、バディ解消なんて言い出したの?」
 巧美ちゃん達にお礼を言って分かれた後。
 俺達の部屋に戻るのを嫌がった香織の意思を尊重して。
 俺は、近くのホテルに部屋を取った。
 そのベッドの上に、香織を座らせて。
 俺は、絨毯の上に膝立ちになって、そっと、大切な恋人を見上げる。
「俺が――嫌いになった?」
 ゆっくり、
「………」
 左右に、小さく、頭が振れた。
「俺と、一緒にいたくない?」
 ひとつずつ、
「………」
 ふるふるって、やっぱり、首は横。
「じゃ――…」
 たしかめて、
「他に、好きな人が出来た?」
 すすむ。
「…違うッ!」
 心外だというように歪められる、辛そうな瞳。
「……香織」
 香織に、そんな表情をさせてしまった事を後悔しながらも。
 正直、ほっとした。
 俺とのバディ解消の理由が。
 実際の処、俺と別れたいっていう話なら。
 もう、どうしようもないから。
「香織」
「……」
 そっと、俺の大事な恋人の頬に触れて。
 それから、ふわもこが気持ちいい髪に指を絡めて。
 ゆっくり、重心を前に倒して。
 丁度、俺の右肩に額を預けさせるような姿勢に導く。
 香織はさして抵抗もなく。
 そのまま身動ぎもせずに、俺に重みをかけた。
「香織。好きだよ」
 幾度と無く繰り返した愛の言葉を囁いて。
 よしよしと、肩を抱く。
「大好きだよ。香織」
 俺は、壊れた音盤のように、同じ言葉を繰り返すしかなくて。
 それでも、力なくベッドに投げ出されていた香織の腕が。
 そっと、スーツの端を握り返してくれて。
 嬉しくて、髪にキスを繰り返してたら。
 ぐ、って項に手をかけられて、強く引き寄せられて。
 ――深い、キス。
「……んッ…」
 香織からのキスは好き。
 悦くて、すぐに意識が飛びそうになる。
 くち、って。
 なけなしの羞恥心を煽る、粘性の水音の卑猥さに。
 背筋が、ゾクゾクした。
「…何も」
「?」
 仕掛けられた色を甘受して、呼吸を乱す俺に。
 香織は、微かに潤む思いつめた眼差しで。
 そう、切り出した。
「何も言わないのは、お前の方だッ!
 いつも全部自分の中背負い込んで、何も話してくれないじゃないか!
 今回だけじゃない、お前はいつも! 昔からそうだ! ちっとも変わらない!!
 自分勝手に俺を護って、俺の知らないトコで傷を増やして…!」
 声が、震えてる。
 香織はずっと内側に溜め込んじゃうタイプだから。
 きっと今まで言いたいこと、我慢してたんだなって。
 そう思ったら。
 愛しさで胸が満たされてゆく。
「昔は、俺は銃の扱いなんて分からなかったし。
 背丈だって、腕力だって、体格だって。
 実際にガキだったから、米良に――護られるのも仕方ないって。
 だったら、俺が強くなればいいんだって思って…、
 ……俺が、米良を護れるくらい強くなれば…きっと――、んッ…」
 さっきのお返しとばかりに、ジャレるようなキスを仕掛けて。
 ぺろりと、香織の薄くてキモチイイ唇を舐めて。

 はなれる。

 遠くなる体温が、寂しくて、物足りないけど。
 今はちょっとだけ、ガマン。
「こないだの人はね」
 突然の告白に、一瞬、香織の身が竦む。
 けれど、これはちゃんと伝えなきゃ。
「俺が、香織に拾われる前に世話になってた人。
 うん、まぁ――有り体に言えば、情人、かな」
「――ッ」
 ビクリ、と。
 『情人』の言葉に、過剰なまでに反応して。
 香織の眉間に、深い皺が寄る。
「好き…だと、錯覚してた人。もう、昔の事だけどね」
「…錯覚?」
「俺ね、あの人に捨てゴマにされたんだ」
「………」
「愛してるとかいう言葉に、コロッと騙されちゃってねー。
 我ながら、若かったなーっておも、う…。わっ?」
 ぎゅ、って。
 ぎゅうぎゅうって。
 香織の腕に精一杯頭を抱き締められる。
 わーい、香織からぎゅー、だーって。
 感動して、感触を堪能してたら。
 すまない…、って泣きそうな声で謝罪の言葉を囁かれて。
「大好きだよー。香織」
 やっぱり俺は、いつも通りの台詞で香織に甘えた。



かおりんがキレました。
ずっと、オトナなめらっちにコンプレックスを感じてるといいです。
どーしても、昔はメラっちに護られるじゃないですか。
フツウに、こどもだし。(笑) かおりん。
で、それがヤで。必死で鍛錬してればいいと思う。
やっと、米良と並べたのに、それでも、痛いほど距離を感じるといい。