#27




 うーん?
 あれ、ここ、何処だっけ…?
 俺、何してるんだろう?
 ああ、そうだ。
 正宗さんと兄さんが仕事で外に出て、美羽さんがちょっと用があるって。
 ――出掛けて。
 留守番しながら、事務所の掃除をしてたら。
 …して、たら?
 あれ…?
「取り合えず、恒ちゃんの手錠外してあげないとねー」
 米良…さん、の声?
 は、するけど、真っ暗だ。
 身体が、うまく動かせないし。
 目蓋が上がらない。
 うー、もういいや。諦めよ。
「怪我してるカンジじゃないから、多分、薬か何かだと思うんだけど。
 ヘンなもの使われて無いといいんだけどねー」
 よいしょ、って掛け声で俺の身体を捻る米良さん。
 ……って、ちょっと待って。
 なんで、手錠で縛られてるんだ。俺?
「外せるか?」
 あ、これは香織さんの声だ。
「うー…ん、だいじょー…ぶ、かな。
 うん、いけそう。旧式タイプだから、多分コレで…っと」
 ピンッ、って何か軽い音がして。
 腕が軽くなる。
「あー、ちょっと血でてる。擦っちゃったんだね。
 全く、乱暴だよねー」
 うひゃ!?
 今、なんか手首に湿った感触が…っ??
「…ッ、米良ッ!?」
「ん?」
 香織さんの、ちょっと咎める声がする。
 …なんか、不機嫌そう?
「誰彼構わず、そういう真似をするな!」
「えー、ただの消毒だよぅ〜?」
「消毒なら、ちゃんとした消毒液を使え!」
「だって、救急箱の場所なんて分かんないしー」
 う。ってことは、今、米良さんに手首を舐められた…んだ。
 何でだろ、ドキドキする。
 …にしても、今みたいなコト、無意識にやっちゃうタイプの人なんだ。米良さんって。
 ……―香織さん、苦労してそうだなぁ。
「それに、誰でもするわけじゃないよー。
 ちゃんと、人を選んでるもーん。
 恒ちゃん可愛いから、なんかこー、チューしたくなるんだよねー」
 …なんだか、複雑な褒められ方してるなぁ。
 きっと、お花を飛ばしながら無邪気に言ってるんだ。
 てか、十八歳のオトコを捕まえて、可愛いってのはどうだろう。
 むしろ、米良さんのが可愛いとおも…、
「…んッ、」
 ……あ、れ?
「は、…ンッ。
 だめ、だよぅ…。恒ちゃんが、目…覚ましちゃ…からっ…」
「黙れ。節操無し」
「…おーぼーだなぁ…」
 クス、って苦笑するそれと。
 思わず赤面しちゃうよーな、えぇと、その、ぁぅ…。
「ン…、か、おり…っ。
 やっぱ、…だめ、って、恒ちゃん、が。は…っ…」
「なら、声を抑えてろ」
「ンなこと…できるならっ…とっく、に…、
 くあっ…!」
 うわー、うわー、うわー。
 どどどどどどど、どうしよう。
 ちょっと待ってクダサイー。
 俺、ココにいるんですけど。もしもしー!!
「ゆ、び…やっ、ぬい、…て。かお…りぃ」
「ダメだ」
「く…ぅ・ン。ヤ…だぁ、いじ…わるっ…しなッ…で」
 ゆびをぬくって、ゆびをぬくって…。
 抜くってことは、何処かに入れてるワケで。
 えぇえええええええええええ???
「や、だ…ぁ」
 荒い、甘い吐息と、喘ぎ声。
 もう心臓がばくばくで、頭がぐるぐるで。
 この場から逃げ出したいけれども。
 今の状況じゃ、そういう訳にもいかなくて。
「は、…ぁ――ン。ヤだ、イっちゃ…」
「イけばいい」
「…ぅ。も…ぉ…」



「世話かけたな」
「んー、いいのいいの。恒ちゃんも無事だったし、良かったよー」
 『アレ』から、暫くして兄さんたちが戻ってきて。
 俺は、兄さんの踵落としで強制的に起こされた――。
 というか、ホントは意識はあったんだけど。
「ど、どーぞ」
 米良さんと香織さんに珈琲を用意して。
 俺は、そそくさとソファに座る兄さんの後ろへ移動した。
 …うぅ、駄目だ。
 まともに二人の顔が見れないよぅ。
「まー、チンピラっぽかったし。もう来ないとは思うけど。
 一応、戸締りとか気をつけた方がいいよぅ?」
「おー、そうするわ。
 にしても、ピザに下剤なんざ。俺等にソレ食わす気だったのかよ」
「まさかー。
 事務所の様子がおかしいなーって思って、仕込んどいたものだし。
 ココまでうまくいくとは思ってなかったけどね。
 素人さんで助かっちゃったー」
 え? って、米良さんの言葉にビックリして。
 俺は思わず、綺麗な隻眼の年上の人を見上げた。
「じゃ、ワザと捕まったんですか!?」
「うん」
 にっこり、って微笑まれて。
「なんで…」
 って、思わず呟けば、兄さんからゲンコツをもらってしまった。
「イターーーー! なにすんだよ! 兄さんッ!」
「ウルセェ。ボケカスウン○たれ。
 なーんで、米良がワザと捕まったと思ってンだ」
「なんで…って、」
 ――…?
 事務所には沢山怖い人たちがいたし。
 そんなところに、たった一人で。
 わざわざ――危ないと分かってて、捕まっ…た?
「なんで?」
 きょとん、と聞き返すと。
「テメェの為だろうが、ヴォケ」
 って、言われた。
「まーまー、巧美ちゃん。その辺はいいよ、別に。
 それより、さっきの連中の中にねー…」
 それから。
 俺には何がなんだかサッパリな。
 多分、裏世界の事情ってヤツだと思うんだけど。
 そういう話を始めた兄さんと米良さんに置いてけぼりにされて。
 結局、どういうことだか最後までわからずに。
 米良さんと香織さんを見送った後。
 正宗さんに、そっと、俺の為にっていう兄さんの言葉の意味をきいてみた。
「あー、それね。
 ほら、中の状況分かんないから、イキナリ乗り込んで暴れたりもできないっしょ。
 だから、様子を見るために、だね。
 事務所には大体、恒ちゃんがお留守番でいるって分かってるだろーしね。捕まってる可能性高いって踏んだんじゃないかな。
 じゃなきゃ、もっと荒っぽい方法でいぶし出す方法もとれたワケだし」
「じゃ…、俺が捕まってるかもって――思ったから」
 正宗さんに答えを貰って、
「だから――ワザと…?」
 もしかしなくても、米良さんは、とっても優しいんじゃないかと。
 や、今までもそうだとは感じてたけど。
 兄さんと趣味があうから、綺麗だけど変な人だっていうイメージが強くて。
 だから――。
「米良さんって、」
「ん? どかした? 恒ちゃん」
「米良さんって…すごく、いい人なんですね」
「あははははは。じゃなきゃ、所長とダチなんてやってらんないって」
 何を今更、と笑い飛ばされるのも構わず。
「ホントに、優しい人なんですね…」
 俺は、噛み締めるようにもう一度呟いていた。
 すると、恒ちゃんも優しくていい子だよー。
 って何処か諭すように言われて、よしよしと頭を撫でられた。



恒ちゃんはとてもいい子だと思います。
そして、米良っちとカオリンの濡れ場に
ドキドキハラハラです。
そんな今日のわんこなのでした。
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