#35




「…ん?」
 頭が、痛い。
 光が、眩しい。
 遠くに、人の気配。
 いや、近くだろうか。
 駄目だ、考えが纏まらない。
 ここは――…、何処、だ?



「あ、香織。気がついた?」
 部屋の隅から嬉しそうに尻尾を振って駆け寄ってくるのは――、
 年上の恋人、だ。
 とても大切な、かけがえの無い、俺の――…。
「…、め、ら?」
「大丈夫? あの子はヘンなクスリとか使わないから、大丈夫と思うんだけど。
 気分悪くない? 熱は? 水持って来たほうがいい?」
 米良が甲斐甲斐しく世話を焼いてくるのは、何時もの事だが。
 何故か、今日は過剰サービスな気がする。
 ……どうかしたのか?
 と、尋ねたくて、声が掠れた。
 様子を見取った米良が、慌てて水を汲んでくる。
 そして、背中を起こされて。
 ――…口移し。
 米良が口内に含んだ氷で、それでも水は冷たく気持ちいい。
 性急に求めすぎて、小さく咳き込んでしまって。
 米良は心配そうに眉根を寄せた。
「香織。ヘーキ?」
「あ、あ。…大丈夫、だけど…」
 手足が重い。
 動かなくはないが、泥の中に埋もれているようだ。
「ここは…?」
「帝国ホテルの部屋だよ。
 今晩はここに泊まって、朝は下で朝食取って帰ろうね。
 社長には連絡しておくから、心配しないで。
 あ、明日は香織はお休みにしてもらうね」
「………」
 米良の様子が、普段と違う。
 何故だろうと原因を探って、数時間前の記憶が蘇る。
 短い遣り取り。
 罠だと、分かりきっているのに、挑発に乗って取引をした。
 愚かな行為だと、後悔が今更ながらに沸きあがる。
「…アイツ、は…」
「アイツ…? 京ちゃんのコト?」
「眼鏡の…、赤いコート、の…」
「さぁ、まだ部屋にいるのか帰ったのかは知らないけど。
 でも、とりあえずココにはいないから、安心していいよ」
 ふわりと微笑む、綺麗な年上の恋人に対して。
 酷く、後ろ暗い気持ちになって、目を逸らした。
「にしても、ダメだよー。香織」
 めっ、と急に叱りつける態度になる米良に、ココロがしぼんだ。
「知らない人についていっちゃ、めッだよ」
 まるで幼い子を諭すそれだ。
 しかし、反論できるだけの説得力が今の自分には存在しない。
「俺の事よりも香織は自分を大事にしてね。
 香織に何かあったら、俺、生きていけないよー?」
 コップをサイドテーブルに置いて、米良はおどけて見せた。
 けれど、そんなのは、俺も同じ。
 米良に何かあったら、狂ってしまうかもしれない。
 俺の、俺だけの、大切な――極上のアルビノ。
「メ、ラ…」
 米良は昔の自分の事を語りたがらない。
 勿論、俺が強く迫れば話してくれるのだろうとは思う。
 何よりも、俺を優先させる仕方の無い年上だから。
 だけど、それでは意味が無い。
 無理に過去を語らせて古傷を抉り出すような真似。
 大切な恋人に望むほど、傲慢(コドモ)じゃない。
 けれど、全て昔として割り切れる程、冷静(オトナ)でも無い。
 知りたい――けれど、訊けない。
 そんなココロの隙間をつかれてしまったのだと、思う。
 そして、結局迷惑をかけてしまった。
 やっぱり、自分はまだまだガキで、米良はオトナなのだと。
 改めて思い知らされる気がして、気持ちが沈んだ。
 果たして俺は、この綺麗で余裕綽々な恋人に追いついて。
 守る事が出来るように、なるんだろうか、なんて。
 とりとめも無い思考にとらわれながら、眠りに付いた。



なんというか、カッコ可愛い年下攻めを目指してます。
まぁ、理想と現実なんてこんなものということで。
なんというか、ストプラの米良&香織は、本当に
お互い無意識のところで依存しきってしまっていて
失ってしまったら、本当にどうにかなってしまうくらい狂っていればいいと思います