#39




 米良が巧美さんの弟の恒君を気に入っているのは。
 周知の事実で。
 その感情に特別なものは含まれないことも。
 明白な事実で。
 俺はまだまだ米良のように大人じゃないから。
 年上の恋人みたいな度量は無くて。
 イチイチ、全部に見っとも無く嫉妬してしまう。
 ただそれを、ガキ特有のカッコ付けで、体裁だけ繕っているだけで。
 本当は、全部。
 米良と関わる世界自体にまで嫉妬している。
 けど――…。
 言い訳が許されるなら。
 自制が効かなくなったのは、確かに俺の所為だけじゃない。
 多分、オズ先生のワインが原因だと思う。
 所謂オトナのオモチャも一緒に。
 バレンタインの贈り物だと宅配便で送られてきた。
 タチの悪い冗談が書かれたカードが添えられていたが。
 いつものことなので、気にせず伏せておいた。
 どんなものかと、少しだけワインの味を確かめた後。
 本人に送り返すつもりで、玩具を包みごとバッグへ放り込み。
 買い物に出掛けたらしい米良を追って、マンションを出た。
 行き先も通る道も、大概予想はつく。
 そして見つけた、節操無く愛を振り撒く年上の恋人。
 普段ならどうにかやり過ごすことも出来るのに。
 その時だけは。
 胸の内に燃え盛った炎を。
 どうすることも出来ずに。
 そのまま、酷いやり方で綺麗なアルビノを、喰らった。



「…ん、」
 ベッドの上に半裸でぐったりと気を失う綺麗な年上の髪を撫でていると。
 その感触が気持ちいいのか、愛しい恋人は無意識に掌に擦り寄ってきた。
 人懐っこいように見えて、他人への警戒心が強い米良が。
 こうも無防備なのは、自分だけの特権だと知っている。
 知っているから。
 ほわ、と温かい気持ちになると同時に。
 申し訳無さで心がいっぱいになった。
「…メラ…」
 酷い事をした。
 あんなのは、愛情ある恋人同士の間の行為とは言えない。
 単なる慰み。性欲の捌け口。
「…最低だ」
 けれど、このどうしようもない年上は。
 ふんわりと微笑んで自分を許すのだ。
 何時もの様に、蕩けるような甘い言葉を添えて。
「…ん、か、おり?」
 ぼんやりと考え込んでいたら、米良がうっすらと瞳を開けた。
 凄烈な印象を与える紅柘榴のそれは、今は霞がかかったよう頼りない。
「…すまない。無茶を、…した」
 そっと銀の髪を撫でて謝れば、ふわりと甘い感情に包まれる。
「…大好きだよ。香織」
「――…っ」
 どうしてこうも。
 何もかも受け止めて微笑んでくれるんだろう。
 今までに一度だって。
 米良が俺に嫌いなんて口にしたことは無い。
 この無闇な寛容を。
 怖いと思ってしまうのは、俺の器の問題なんだろうか。
「今…何時?」
「19時少し、だな。腹減ってないか? 食事の用意をしてくる」
「香織は…?」
「まだだ。お前が起きるのを待ってた」
「…そっか」
 そんなに嬉しそうにされると、コッチが妙に気恥ずかしい。
 この綺麗な年上は、何時だって無意識に。
 けれど、絶妙に俺を手玉に取ってくれる。
「かーおり」
 人差し指で自分の口唇をちょいと指差す恋人に。
 キスを強請られているのだと察して。
 フレンチ・キス。
「香織。…すき」
 うっとりと囁かれて、幸福感に溺れそうになる。
 キッチンに置きっぱなしのワインは早速捨ててしまおう。
 流石に使用済みを突っ返すわけにはいかないから。
 例の道具は燃えないゴミの日に出そう。
 大切だから、大切にしたい。
 こんな単純な気持ちを今更に噛み締めて。
 もう一度、優しくて綺麗な恋人に、深くキスをした。



米良っちは、どんな仕打ちを受けても香織たんなら許します。
例えば、それが分かれ話だったりしても
それが、香織が幸せになる道ならと受け入れるイメージ
でも、香織たんにはソレが切ない
もっと独占してほしい。もっと欲しがってほしい。
無い物ねだりの、どうしようもないくらい両思いスレ違い。