#47




 青い鍵を受け取ってから三日。
 仕事中の空き時間に取り出して。
 見るともなしに眺めていたら。
 不意に思い出した『それ』に。
 溜息を吐いて。
 そのまま知らんぷりしようとも考えたけど。
 巧美ちゃんたちに迷惑が掛かるから。
 無視するっていう選択肢はやっぱりNG。
 仕方ないと覚悟を決めて。
 けれど、まだ猶予はあるから。
 鍵を懐に仕舞い込んだ。
 それから。
 少し前にメールでお知らせが来てた。
 美国探偵事務所のホームパーティの事を思い出し。
 折角なので、香織をビックリさせようと。
 ナイショで準備を進めたのが。
 ――マズかった。
「……っ、ア、やっ…、か、おりっ 」
 ぐちゅ、って。
 ちょっと流石に色々恥ずかしい音が。
 パステルブルーの風呂場に響く。
 背面立位でのSEXの経験は。
 決して、少なくはないけど。
 香織とは――、あまり、無いと思う。
 後ろからっていうのが。
 すごく、苦手。
 香織もそれを何となく察して。
 殆ど、向き合う形で抱き合うのに。
 ――やっぱり、まだ怒ってるんだなぁって。
 胸がチクリとした。
「……ン、っ …」
 奥深くまで突き入れられ。
 合わさった場所から。
 ジンジンと痺れるような快感が迫り上がる。
 気持ちい事は好き。
 だから、SEXも好きだし。
 大好きな香織とのSEXは最高にキモチいい。
「……か、おり … っ」
 熱く存在を主張するモノを咥えこまされたまま。
 快楽に蕩けてぬめる先端を指先でくじられ。
 思わず腰をくねらせると。
 後ろで感じる香織のを。
 内部に擦りつけてしまい。
 激しい快感が走り抜けた。
「―――ッ、ひゃ …ッ、ン、やッ」
 強すぎる感覚に堪え切れずに。
 ガクガクと震える両足の内側を。
 香織の掌が悪戯に撫で上げてゆくのが。
 たまらない。
「…やらしいな」
 まだ少し不機嫌だけど。
 勝る情欲に流されて艶めかしい声を。
 耳元に押し込まれて、背筋に電流が走る。
「かおり…」
 ハァ、と。
 乱れる呼吸で必死に名を呼べば。
 優しく、内部を掻き回されて。
 狂いそうな程気持ちよくて。
「…メラ…、」
「………?」
 思考は散り散りになって纏まらない。
 香織もそれを理解していて。
 このタイミングで本心を覗かせるから。
 必死で言葉を拾い集める。
「…愛してる。何処にも…いくな」
「――…ッ、ア、あぁっ!」
 何処にも行かないとか。
 ずっと傍にいるとか。
 そんな優しい言葉(うそ)を口にしようとして。
 まるで、見透かされるように。
 強く突き上げられる。
「あっ…、や、かおっ……、
 かおりっ…、ダメ、だめッ…――、
 つよす、… あ、アァッ…… !」
 激しい攻めにあられもない声をあげて。
 何度目かの、絶頂を迎えた。



 目をあけると。
 香織の寝顔があった。
 安心しきって眠るその横顔に。
 目眩がするほどの幸福を感じて、キスをする。
「……大好きだよ。香織」
 囁いた声は、掠れてた。
 あれだけ煽ぎまくれば当然かと。
 冷蔵庫のお茶を取ろうとベッドを下りようとして。
「――…」
 ぺたんと、床に座り込んでしまった。
「あれ?」
 訳がわからずに。
 取りあえず、起き上がろうとして。
 やはり、立ち上がれない。
「―――ッ!」
 原因に思い当った途端に。
 顔から火が出るほど恥ずかしくなった。
 腰が抜けて自力で立てないなんて。
 いい歳して、色々な意味で情けない。
 おまけに、情事の後なので。
 それはもう見事に素っ裸。
「……せめて、上に何か…」
 キョロキョロと辺りを見回して。
 床に散らばる脱ぎ捨てた時のままの。
 自分の白のジャケットをどうにか捕まえて。
 素肌の上に羽織る。
「………」
 何も着ていないよりはマシになったけど。
 この姿はこの姿で妙に気恥ずかしい。
 どうしたものかと困り果ててると。
 ベッドの上で眠り込む可愛い恋人が。
 もそりと起き出す気配がした。
「……米良?」
 不審そうに声を掛けられて。
 そろそろと肩越しに振り返る。
「あ、あはは。
 その、…えっと」
 どうにか誤魔化せないかと。
 言い訳を探すけれど。
 どうにもこうにも。
「どうかしたのか?」
 大好きな香織の声が。
 不審気なそれから。
 気遣わしげなトーンになる。
 シュルと起き上がる気配と。
 バスローブを纏う音の後に。
 香織は近付いて。
 俺の様子を伺った。
「…米良?」
「…えと、うん。
 その、ちょっと …立てなくて 」
 顔を覗きこまれて。
 ますます恥ずかしくなってしまって。
 ふいと視線を逸らせながら答えると。
 案の定、香織の黒くて真っ直ぐな瞳が。
 零れ落ちそうな程大きく見開かれた。
「…立てない、って」
 そして、口元を押さえて。
 カァと茹で上がる年下の恋人。
 今時の子にしては、恥じらいたっぷりで。
 とても可愛い。
「…悪い。俺の所為だな…」
「…うん」
 香織の可愛くて素直な反応に。
 ちょっと余裕が生まれたので。
 意趣返しに、からかってみる。
 そんな自分のタチの悪さを自覚しつつ。
 こういうのは年上の特権だよね、うん。
 なんて開き直る。
「香織のエッチ〜」
「ッ! ばッ!」
 益々赤くなって言葉に詰まる。
 そんなウブなところも。
 大好きで。
「……すき、だよ」
 バスローブの襟ぐりを掴んで。
 くい、と引っ張って。
 口唇を軽く舐めた。
「………メラ…」
 濡れた唇が悩ましい。
 欲情した声で名を呼ばれると。
 それだけで、うっとりとしてしまう。
 本当に、大好き。
「明後日のホームパーティ…。
 一緒に、いこうね?」
「……けど、その日は仕事で…」
 戸惑う香織に、ふわりと笑顔で応じる。
「大丈夫。21時開始だから。
 それまでには終わるよね?」
「…まぁ…」
 パートナーの俺がいないのだから。
 米良が単独で護衛任務へ就く可能性は低い。
 デスクワークで21時までの残業ってのは。
 ちょっと考えにくい。
「だったら、迎えに行くから。
 ね? 一緒に、いこ」
「…分かった。
 楽しみにしてる」
 上機嫌に微笑む香織に。
 嬉しくなって。
 今度は、深いキスを仕掛けた――。



米良とかおりんは場所も人目も年も考えずに
ひたすらイチャイチャイチャイチャしてればいいです。
周囲にいる人が当てられて恥ずかしくなればいい。
そんなダメダメなくらい依存し合う恋心