#49




 子どもじみた独占欲と我儘で。
 恒君をあまり構わないようには言いつけて。
 実際、俺の望むように努めようとする米良が。
 こんな裏切り行為を披露してくれるとは。
 急いでパーティへ駆けつけた俺には。
 思いもよらない展開だった。



「………米良」
「…ハ 、 ハイ 」
 半強制的に連れ込んだビジネスホテル。
 フロントで適当な名前を書いて。
 一泊宿泊で一部屋借り上げると。
 そのままズンズンと部屋のキー片手に進んで。
 今は、少々手狭なベッドの上に。
 ちょこん、と居心地悪そうに正座している。
 節操の二文字が。
 絶望的に欠落している恋人を。
 鬼のような形相で見下ろしていた。
「さっきのアレは、どういうことだ?」
「え、 え、…と」
 しどろもどろになり、視線を泳がせるパートナーに。
 ずい、と詰め寄り答えを強要する。
 アレが恒君なら、…腹を立てはしても。
 無理やりパーティから連れ出して。
 ホテルに拉致ったりしなかっただろう。
 ――それ程の衝撃と、怒り。
「…香織。その…、 怒って、る?」
「当然だ」
 恋人が楚々とした女子高生を優しく拘束して。
 優しく口付る姿を目撃したというのに。
 それでも笑顔でいられる程。
 ――寛容じゃない。
 寧ろ、米良に対してはひどく狭量だ。
 自覚はしているいるものの。
 強くて美しい年上の恋人に対し。
 常にコンプレックスを抱える身としては。
 どうにも抑えきれない部分なのだ。
 米良に愛されている自信はある。
 ただ、己の不甲斐無さが。
 情けなくて。
「あ、あのね。別にやましい気持ちじゃなくって、 ね?」
 こんな下らない。
「だいたい、あの子は、ほら、えと」
 醜い嫉妬。
「恒ちゃんのコト好きみたいだよ。
 それでヤキモチ妬いちゃ… 、 て 、え?」
 米良の声に、戸惑いが滲む。
 けれど、構わず。
 口唇を合わせた。
「……ん、ッ …」
 無防備な恋人に、バード・キス。
 米良は快感に弱い。
 痛みには強いくせして。
 こういうトコロもタチが悪い。
 気持ち良さそうに。
 妖艶な石榴の瞳を伏せ喉の奥を鳴らす。
 色素の希薄な大理の肌は。
 ほんのり桜色に染まって。
 ひどく、扇情的。
「…俺以外のヤツにキスなんてするな」
 繰り返し啄む口付けの合間に。
 低く、囁けば。
 嬉しそうに微笑まれて。
 卑しいな独占欲が満たされる。
 余りの無様さに、眩暈がした。
「…かお、り …」
 はぁ、と少しだけ呼吸を乱して。
 切なく身悶えるアルビノに。
「いいな」
 最早強制の口調で言い聞かせる。
 う、と返答に詰まるのは。
 約束出来る自信がないからか。
 本当に――…、どうしようもない。
「米、良?」
 怒気を孕んだ声に、うう、と視線を彷徨わせる。
 追い詰められて困り果てる姿は可愛いが。
 ここで懐柔されては元も子もない。
「…で、でも。香織…」
「でもじゃない」
「う、…だ、だって…」
「だってじゃない」
「…じゃあ、ココ以外はノーカンなら」
 ちぅ、と俺に甘えた仕草でキスを仕掛けて。
 濡れた表情の上目遣い。
 一瞬、受諾しそうになるが。
「……却下。」
 持ち直した理性で取り下げ。
 今まで散々俺を怒らせた他人への接触は。
 全て、口唇以外へのキスだ。
「うー、香織のケチぃ」
「…ケチで結構だ。
 お前に関しては心が狭いんだ。俺は」
 男として決して自慢出来無い内容を。
 半ば自棄気味に吐き捨てれば。
 きょとん、と紅い瞳が瞬いた。
 それからふわりと微笑んで甘えてくる。
「…えへへー。
 もしかして、俺って愛されてる?」
「当たり前だ」
 茶化す言葉に誤魔化されず。
 直球で返せば、ぐ、と。
 米良は声を詰まらせた。
 無論、顔は赤い。
「…香織ってば反則。
 いっつも可愛いのに、急にオトコノコだし」
「……俺は。
 いつもお前に追いつこうと必死だ」
「…香織は、もう俺なんて追い越してるよ?」
 細波のような控え目な笑声。
 髪を撫でる感触が気持ちいい。
(――…嘘吐きめ)
「――ん?」
 胸の内の声が届いたわけでは無いだろうに。
 絶妙なタイミングで、小首を傾げる年上の恋人に。
「今度、約束を破ったら。
 浮気してやるからな」
 心にも無い脅し文句を叩きつけて。
 有無を言わさず。
 深い接吻を仕掛けた。



香織も米良も、相互メロメロ
それが理想というか基本
肉体的には香織×米良
精神的には逆
でも、時々精神的にも逆になればいい