
#6
マナーモードに切り替えた携帯が振動した。
懐から取り出して、相手を確かめる。
――米良、だ。
「…はい」
『よぅ、香織か。今、何処いんだ?』
「………」
予想外の事態に固まってしまった。
いや、米良は美国探偵事務所へ調査書を届けに出たのだから、そこの所長から米良の携帯を使って連絡が来るのは――全く、奇想天外という程でも無いが。
『どーしたよ。米良じゃなくて残念か?』
返答に詰まってると、携帯の向こうで巧美さんが面白がるように囁いた。
「…ッ、いえ。申し訳ございません。その――何か、御用ですか?」
『おー、ちょっと米良のヤツ。事務所で風呂に入ってるからよ。着替え頼むわ』
風呂?
美国探偵事務所で?
……どうして。
『ったく、大人しくしときゃーいいものを。ヘタに抵抗しやがって、無理やりツッこんでやったから。もう、グチョグチョだぜ』
………つっ……こ…
む
ナニをドコにで、ナニがぐちょぐ……
『米良のヤツも、意外と可愛いよなァ。あわてた顔とか、フツーにソソラレルし』
「……ッ、用件は米良の着替えですね。直ぐに向かいますから」
『おー、ま、そんなに急がなくてもいーぜ。今、外に出れるカッコじゃねーしな』
「……! 失礼しますッ」
反射的に、通話を切ってしまった。
「――…ッ」
巧美さんの、何時ものタチの悪い冗談だ。
感情的になって反応すれば面白がられるだけなのに。
分かっているのに、毎回――良い様に、揶揄られてしまう。
「全く。何やってるんだか…」
軽い自己嫌悪の後、俺は、米良の着替えを取りに部屋へ帰った。
「………」
前面の窓部分に、大きくシール打ちされた美国探偵事務所の文字に俺は足を止める。
「別に、今更じゃないか…」
米良と巧美さんが仲が良いのは、今更だ。
あの妙な趣味や話題が合う人間なんて、そうそういるもんじゃない。
懇意になるのは、自然な結果だ。
それを――毎回、妬くなんて、
馬鹿げている。
二階に続くコンクリートの階段を上って、扉に手をかける。
片手には、米良の着替えを詰めた紙袋。
一応、眼帯や手袋の予備も持ってきたけれど――、
いつもの冗談だ。
タチ悪くからかってるだけだ。
分かっている。
――分かっているけど。
巧美さんの下で擽ったそうに笑うアイツなんて、見たくなかった。
香織たんサイド。
タクミ様は確信犯です。最強です。ネ申です。
っていうか、一般的な攻めは受けが教われてたら怒ると思うんだが
香織たんの反応は完全に受け子ですよねッ
というわけで、ブラウザ(IE等)は閉じてお戻りくださいネ。