#63




「言い訳なら聞いてやる」
 背中にはふかふかのベッドの感触。
 目の前には鬼の形相のパートナー。
 ヤキモチを焼く香織はとっても可愛い。
 実は。
 ほんのちょっとだけ。
 香織には絶対に言えないけど。
 嫉妬、とか。
 独占欲、とか。
 そういう感情を剥き出しにして欲しくて。
 ワザと他の子にチョッカイを掛けたりしてる。
 ――香織にバレたら、多分一週間くらい口をきいてくれないから。
 これは、ナイショだけどね。
「え、えへへー」
「えへへ、じゃない。
 お前は少し目を離すと……ッ!!」
 キィキィと角を生やして怒りだす香織に。
 腕を伸ばして、ぐいと頭を引きよせて、チュウ。
 啄むだけの子ども騙しなそれで。
 だけど、威力は充分な程。
「かーおーりー、大好きだよぅー」
「…知ってる」
「もっと、チューしよっか?」
「………」
 カァッ、って耳のトコまで赤くする純情な年下の恋人。
 それを手玉に取る悪いオトナな俺。
 そのまま深く口付けようとして、ぐ、と肩を押された。
 拒絶。
 ちょっと、こっそり凹んでみたり。
「…どうして、」
「ん?」
「どうして、恒くんといい、羽井くんといい…ッ、
 お前はそうも節操が無いんだ!
 ちょっとした火遊びのつもりなんだろうけど…、
 甘く見てると思わぬ火傷を負うぞ!」
 今回は結構本気でスネてるなー、と。
 目をパチクリしてしまう。
 流石にこの辺りでご褒美を用意しないと。
 ニャンコのご機嫌は治りそうにない。
「ね、香織?」
「…なんだ」
 あ、すっごい不機嫌。
「監禁プレイやってみよーか」
「………!?」
 あ、固まった。
 俺の言葉にフリーズした香織は。
 徐々に茹であがって。
 くっきりはっきり、真っ赤な顔をして怒鳴る。
「こッ…、の、バカッ! どうしてそういう話になるんだッ!?」
「えー、だって。オトコノコのロマンのひとつじゃない?
 俺ならいーよ? なんなら、手錠とか、首輪とか…」
「もう黙れ! バカッ!!」
 ぼすっ、と枕を顔面に叩き付けられて。
 そこから先の卑猥なコトバは遮られてしまった。
「俺は向こうに戻るから、
 米良ッ、お前は取り合えずベッドルームから出てくるなよ!」
「ありゃ? 早速始めるの?」
「ン、なわけ…――ッ!!」
 コンコン。
「!」
 遠慮がちなノックの音に、香織はビクッと肩を竦ませた。
「すみません、俺はそろそろ地下に行きます」
 声の主は羽井くんで。
 扉の向こう側から、必要最低限な会話を寄越した。
「……あ、ああ。
 すまない、俺も直ぐに行くから」
「いえ、ゆっくりして頂いても平気です。
 教わった通りに練習していますので」
「………」
 羽井くんは、良くも悪くも順応性と基礎能力が高い。
 きっと、一人でも淡々と訓練をこなしてしまうんだろうけど。
 …彼の教育係を任されている以上。
 そういうワケにもいかない、はず。
「…流石に一人にさせておくわけにはいかない。
 訓練準備を済ませて待っていてくれ」
「分かりました。所長の弟さんと一緒に降りています」
「ああ、頼む」
 短い遣り取りを終わらせると。
 香織はギロリと剣呑な視線を此方へ向けた。
「兎に角…、今夜もう一度じっくりお前の見解を聞かせて貰うからな。
 ちゃんとした言い訳を用意しておけよ!」
「はーい、いってらっしゃーい」
「……ッ!!」
 緊張感無く見送る俺に。
 流石に堪忍袋の緒も切れたのか。
 ズカズカ足取りも荒く近付いてきて。
 ……噛み付くようなキスをされた。
「…覚悟してろ」
 そして、この宣戦布告。
 俺には、とびきりの口説き文句にしか聞こえなくて。
 愛らしい年下の恋人を。
 今夜、どうしてやろうかと。
 イケナイ想像に口元を緩めた。



メラはタチの悪い大人なので、何度怒られても懲りません
でも、本当に香織がイヤがることはしないので
香織も何処か米良の放蕩さを許しているのかも
そんなオトナな関係、けどコドモっぽい二人の関係