#64




「かーおーりー? まだ機嫌悪い?」
 部屋のド真ん中どーんと置いてある便利ソファの上。
 でろーん、と背凭れに顎を乗っけながら。
 ワザと甘えたがりな口調で問いかけてみる。
 機嫌を損ねたままの香織は答えてくれなくて。
 シャワーを終えた後の。
 ペタンと可愛く寝転がる黒髪をタオルで拭きながら。
 二人暮らしにしては結構な大きさの冷蔵庫を開いて。
 中身をしげしげと覗き込んでいた。
 残ってる食材をチェックして。
 買い物リストでも作るのかなー、ってのんびりと。
 こういうのは香織は本当のマメで。
 成るべく食材の無駄がないように考えてくれてる。
 将来いいお嫁さんになれるよね。
 …今のところは、誰にもあげるつもりはないけどね。
「ねー、ねー、香織ってばー」
「ウルサイ」
 つれない一言の後、冷蔵庫の扉はパタンと閉じられて。
 香織の右手には取りだしたミネラルウォーター。
 そろそろネットで纏め買いしないと、なんて。
 そんな事を考えながら。
 香織が近付いてくるのをぼんやりと見ていた。
「で?」
「うん?」
「言い訳を訊かせて貰おうか?」
 丁度反対側のソファの上。
 向き合う形で座った香織は。
 何処か不穏な空気を纏いながら、訊いてくる。
 そんな生真面目なコイビトを少しからかってみたくなって。
「チューしてくれたら、ね?」
 ん、と唇を差し出して、情を強請る仕草。
 すると、柔らかくて熱いキスの代わりに。
 硬くて冷たいナニかが触れてきて。
 びっくりしながら目蓋を上げると。
 氷の塊を押しつける香織の姿が目に入った。
 中央のテーブルの上のアイスペールに。
 山と積み上げられたそれを拾い上げたらしい。
 むくれた横顔での子どもじみた報復。
 そんなパートナーが、可愛らしくて、愛おしくて。
 ――…同時に、イケナイ気分にもさせられて。
「………」
 ペロリ、
 冷たい氷の表面を舐める。
 そのまま、香織の指先まで舌を這わせると、ピリッとした緊張が伝わった。
 アレもコレもしてしまっているのに。
 未だに新鮮な反応のコイビトに、煽られる。
「……っ、め、米良ッ、 し、しずくが… 、」
 ポタ、ポタ。
 テーブルの上に、溶けた氷が水滴となって落ちてゆくけど。
 そんな些細なこと、今はどーでもいい。
「…ンッ…、」
 小さくなった氷ごと、香織の指先を咥え込む。
 所謂、疑似フェ●チオ。
 銃を操る指先に舌を絡ませて、何度も、何度も。
 浅く、深く、ワザと性感を煽りながら。
 とうに氷も溶けきって。
 そろそろ頃合いかと。
 チュッ、と意図的に大きな音をたてながら。
 真っ赤になっている可愛い年下の。
 愛おしくてたまらない指先を解放してあげた。
「……め、め、め、らっ、お、おまっ……」
 香織とは余り特殊なSEXはしないから。
 こういう風にイヤラシイ事を仕掛けた時の。
 香織の反応は本当に可愛いくて。
 自然に顔がにやけてしまう。
「ね、香織…」
「……な、なんだっ」
 硬直しているコイビトを誘うように囁いて。
 濡れた姿が卑猥な指先にもう一度キス。
「もっと――…、いい?」
「……っ、こ、答えをまだ訊いてないだろ!」
「えー…?」
 流されてくれるかと思ったのに。
 意外と、強情。
「…じゃあ、一人で遊んじゃうよ?」
 けど、まだまだ甘い。
「? どういう意味――…、ッ!!?」
 アイスペールの中の氷の一つを摘み上げて。
 これ見よがしに、舌先でぺろり。
 そのままバスローブの裾を乱して。
 片足をソファの上に立てる。
 指先は、そのまま奥へ。
「……っ、、ン…」
 押し込んだ氷が冷たくて。
 思わず声を上げてしまう。
 これは、ちょっと自分でも予想外。
 ――だったけど。
 チラリ横目で窺う香織が。
 ますます茹であがっていく姿に。
 意地の悪い充足感で満たされた。
「っ、、……、ふ、 ぅっ……」
 溶けた氷から伝う温い水が、内腿を伝ってゆく。
 ひとつ、ふたつ。
 手頃な大きさのものを選んでは。
 足の間に押し込んで。
 みっつめは、カリ、と角に歯を立てて。
 卑猥な舌使いで、しゃぶる。
「……っ、メ、めら…」
 こくん、と香織の喉が鳴って。
 欲情、してるのを感じる。
「…あっ、も、 か、おり…っ」
 氷を舐め溶かした舌がじんと痺れて。
 それが、キスの余韻のようで。
 うっとりとしたまま、

   ほ し い 

 なんて、誘う俺に。
「〜〜〜ッ、の、バカメラッ!!」
 可愛くて堪らない年下の恋人は。
 すっかりタチの悪いオトナの手管に絡めとられて。
 煽られるまま。
 圧し掛かって、きた。



ねぇ、もっと俺に夢中になって?