#75




 左右に割られた脚の間に、うずまるふわふわ黒猫。
 ふんわりとした毛並みが愛しくて、思わず指を絡める。
 それをどう解釈したのか。
 応えるように絡み付く舌の動きが早まった。
「……っ、ぁう……」
 腰から背中へと、痺れるような快感。
 法悦の極み、とか。
 多分、こんなんじゃないかと思う位。
 堪らない。
 理性はもうとうに悲鳴をあげていて。
 本能だけで縋りつく華奢な肩。
 爪を立てて傷をつけたらいけないなんて。
 躊躇っていられたのは最初のうちだけで。

 今はもう、

「……っ、」
 ガリ、
 背中を強く引っ掻く感覚。
 流石に痛みを感じたのか、香織の肩が小さく揺れて。
「……ご、めっ……」
 悦過ぎて止まらなくなった嗚咽の間から。
 必死で、謝罪を口にすると。
 優しい年下の恋人は無言で『下』にキス。
「……んっ、ぅ…」
「とろとろ…、後何回イけば空になるかな」
「…か、おりぃ…」
「駄目」
 キモチイイ。キモチイイ、けど。
 無理。切ない。口淫だけじゃ足りない。
 けれど、怪我に差し支えるって、香織は拒否モード。

 うぅ…、意地悪ぅ。

「……めら」
 優しく髪を撫でられて、うっとりしてしまう。
 と、不意に視界を掠める違和感。
「…かおり…、ゆび、それ…」
 利き手の人差し指、と。中指。
 綺麗な指先に巻かれた絆創膏を指摘すれば。
 何でも無い、と口籠る。
 隠し事、なんて、ズルイ。
「…痛い…?」
 ふ、と乱れた吐息で香織の指を食む。
「…いや、平気だ」
 応えるように左手で頬を撫でられる。
 香織に触れられるのはキモチイイから好き。
 そういう意味でも、そういう意味じゃなくても。
「ね。…ど、したの、これ?」
 ぺろり、と。
 絆創膏の上から指を舐めれば。
 案の定、可愛い年下の恋人は困り顔。
「大した事じゃない」
「………」
 本当に"大した事じゃない"なら、理由を告げてもいいはずで。
 だから、ここはしつこく食い下がってみる。
「昨日の…、朝はこんなの無かった、よね?」
「もう黙れ」
「ふぁっ…!?」>
 予定外の小休止に息を整えていた前を突然に握り込まれ。
 ビクリ、と反応してしまう。
 途端、身体に沁み込んだ快感が心を犯して。
「……あっ、ぁ……、」
 だらしない声で、喘いでしまう。
「んっ…、 か、おりの、ばかぁっ…」
 答えたく無いから、カラダで黙らせるなんて。
 一体何処で、こんなイヤラシイ手管を覚えたのか、なんて。
 嘆く思考の片隅で、恐らくは自分の所為だとも。
「んっ、〜〜〜んぅぅっ…、やっ、やぁ……」
 悪口のオシオキなのか。
 亀甲を親指の爪でキツく割られる。
 腰から脳髄へ、激しい快感が這い上がった。
 もう結構疲れているはずなのに。
 まだ余力を残すのに我ながら吃驚する。
「…か、おりぃ…」
 シーツにしがみついて、ふるふると頭を振る。
 イかせて欲しいのか、止めて欲しいのか。
 もう、どちらなのかも、分からない。
 ただ快楽の海に溺れて喘ぐだけ。
「…もう、直ぐにイけそうだな。
 これで何回目か、…分かるか?」
「……お、おぼえて、なっ……、」
 そんなの、情事の最中に。
 イチイチ数えてなんていられない。
 冷静でいられる香織が恨めしい。
 時々、意地悪な小悪魔の恋人。
 ――そんなところも、勿論好きだけど。
「五回目。
 絶倫の淫乱…なんて。
 …堪らないな?」
「……ひっ…!」
 褒められているのか、貶されているのか。
 怒るべきか、喜ぶべきか。
「あっ……、ああっ……、もっ…、」
 もう、どうでもいい。
 びく、びく、と。
 爪先が痙攣を繰り返しながら、キュゥと丸く縮こまる。
 イきそう、キモチイイ、
「やぁ…、っ」
 五回目の吐精を迎えた肉体がベッドに沈み込む。
「………んっ、ぅ」
 ハァハァ、と。
 全身で息を継ぐのに、容赦無い本気キス。
 舌を吸い上げられ、軽く噛みつかれて。
 逐情の余韻に火が灯される。
「かお…り…」
「まだイケそうだな?」
「えぇ…、や、 もぅ…、前は無理だよぅ…」
「駄目だ」
「……かおりぃ…」
 素っ気無くかわされ、項垂れる前へキス。
 それより、もっと違う場所を舐めて欲しいのに。
 さっきからのジンジン疼きっ放しの後ろ。
 欲しがっている事なんてお見通しの癖に知らんぷり。
 でも、そんな意地悪な香織もやっぱり好きだから。

 仕方無くて。

「香織…、好き」

 目一杯、我儘な黒猫を可愛がった。



なんかもうこの二人はひたすらイチャついてればいいと思います。