#78




「いいんですか?
 今頃、君人くん黒さんの事を探し回ってますよ?」
「うっさい」
 投げ遣りな態度に、溜息を吐いた。
 普段が完璧な人間程、イジケルとタチが悪い。
 更に黒さんは駆け出し時代の師でもあるので遣り難い。
 ここは、ミクニーランド園内の隅、建物の裏手にある屋外休憩所で。
 自動販売機が数台並ぶ木陰の避暑地は、かなりの穴場だ。
 一般客なら表の施設を利用するだろうし。
 どちらかというと、この場所は従業員の為に用意されているのだろう。
「…俺が口出しすることじゃないですけど。
 どうしたんですか、一体。…らしくないですよ」
 サワサワと涼しげな風が吹き抜けるベンチに腰掛ける黒さん。
 その彼を見下ろすように、傍に立つ俺は、率直に尋ねた。
 下手に遠慮して遠回しにしても、埒が明かない。
「………」
「別に君人くんの事が嫌になったわけでもないでしょう?
 それなのに、一方的にバディ解消なんて。
 もし、俺が君人くんでも納得いきませんよ?」
「…ンなの、わーってるよ」
「だったら、何故ですか?」
「お前には関係ねェだろ」
「米良が君人くんに連れていかれてます。
 関係したくは無いんですけど、仕方ありません」
「…可愛くないぞ、お前」
「可愛く無くて結構ですよ。
 それより、事情を話して下さい」
「………。ホンットに可愛くねェな…」
 ハァ、と溜息を吐き。
 黒さんは真っ赤な煙草を取り出し火を点ける。
 毒々しいそれは、日本のものでは無いらしい。
 わざわざ取り寄せてまで『煙』を吸う嗜好は俺には理解出来ない。
「あー…、くそっ。
 青い春じゃあるまいし、何で俺がこんな事で悩まなきゃならねーんだか」
「…?」
「……笑うなよ」
「内容によります」
「…米良にこっぴどく振られてしまえ」
「負け犬の遠吠えですね」
 淡々と切り捨てていけば、ハァ、と黒さんが肩を落とした。
 普段の黒さんなら、俺の毒舌程度に降参するわけが無い。
 寧ろ、飄々とかわしてみせるのに。
 どこか、おかしい事だけは確かなようだった。
「………、あのな。」
「はい」
「………あのな」
「はい」
「………あの、」
「サッサと言って下さい」
 余程言い難いのか、云い掛けては口を噤む黒さんに。
 イラッとして、強めに先を促すと。
 黒さんは、弱り切った声で反撃してくる。
「……お前の優しさは米良専用か」
 けれど、全く。
 痛くも痒くもない。
「当然です」
「否定しないんだな…」
「これ以上グズグズぬかすなら、君人くんに居場所を教えますよ」
「…っ、この卑怯者が」
「何とでも」
「…あー、もー。
 だから、アレだよっ。
 君人にな、……プロポーズされてんだよっ!!」

 ………。
 何というか。
 足元が崩れ落ちた気がした。



ちなみに、君×黒です。
自分は米良とイチャイチャしてるくせに、
他人の恋事情には固まる香織です。