#9




 今日は、香織と二人でお休み。
 大企業の社長の身辺警護なんてやってるから、そこそこ忙しいんだけど。
 そこは、美国社長の采配で、ちゃんと週休二日を貰えてる。
 社長の持論なんだけど、社員を大事にしない会社は自滅するんだそーだ。
 流石、ヤリ手の女社長。カッコイイよね、言うことが違う。
 そこんじょそこらの、ただお鉢が回ってきたから椅子に座ってみました程度のバカとは、器と度胸と手腕が段違いだ。
 と、話が大幅にズレちゃったや。
 まぁそういう訳で、香織と揃ってお休みを貰えたので今日はお出かけ。
 ホントは、休日じゃないんだけど。無理やりもぎ取っちゃった。
 平日なので、人も多くないし。
 男二人で出歩くには、丁度良い感じ。
 ――なんだけど。
「香織〜? どしたの〜?」
 外出のついでに。
 昨日ので、美国探偵事務所にそのままになってる服を取りにいかなきゃって、言ったら。
 なんだか香織のご機嫌がナナメっちゃってるんだよね。
 うーん、何か気に障っちゃったかなぁ。
「なにもない」
 助手席でむくれられると……可愛くて、ガマン効かなくなっちゃうんだけど。
 美国の事務所前に乗用車を停めて、サイドブレーキのあと、エンジンを切る。
「かーおり」
 犬が濡れた鼻を鳴らして甘えるみたいに、香織の首筋に鼻先を寄せる。
 ちう、って痕を付けたら、ビックリした顔されて次に赤くなった。
「な…ッ、にしてんだ! 米良ッ!!」
 吸われた場所を片手で押さえ、怒鳴る姿がメロメロに可愛い。
 流石俺のハニーだよね、うん、最高。大好き。
「えへー、味見?」
 ぱたぱたって尻尾を振ってみたら、香織はなんとも言えない微妙な顔で言葉を呑んだ。
「ッ、もういい! さっさと用件を済ませるぞ!」
「はーい」
 エセくさい、良い子のお返事をして。
 助手席からサッサと降りる香織に倣って、俺も運転席側から車外に出た。



「こんちゃー」
「お邪魔します」
「あれ? 米良さんと香織さん?」
「やほーい。恒ちゃん」
「おう、来たか。年中無休バカップル」
 今日もヒマそうな探偵事務所の面々に軽く挨拶をして、俺はソファの上に踏ん反り返る巧美ちゃんに近付く。
「お陰様で〜。あや? そいえば、美羽ちゃんは?」
 そういえば昨日も居なかったよなーって、周囲を見回した。
「あー? 美羽のヤツは連休だ。連休」
「へー」
 四人だけの小さな事務所なのに、一人休んで大丈夫なのかなって首を傾げて。
 まぁ、大概暇だし問題ないかと、思い直した。
「それよか、昨日の服取りに来たんじゃねーのか?」
「ああ、そうそう。何処かな?」
「俺、持ってきますね」
「ありがっとー、恒ちゃーん」
 一心不乱に窓の拭き掃除していた長毛わんこ君が、いそいそと奥に引っ込み、直ぐに片手に紙袋を持って帰ってきた。
「はい。この中に入ってます」
「りょーかい。ゴメンねー、手間取らせちゃって」
「元々、兄さんが悪いんですから。気にしないでください…」
 疲れた様子で肩を落として溜息を吐く恒ちゃんに、ちょっと同情。
 巧美ちゃん、いい子なんだけど、無茶苦茶だしねー。
「あれ? 米良さん、手首どうしたんですか? それ」
 荷物を受け取る時に伸ばした腕に、恒ちゃんは不思議そうにした。
「ん? なになに?」
 手首…って、何かあったっけ?
 指摘されてマジマジと自分の左手のくびれを確認すると。
 ――うわ、赤。
 しかも、擦れてて、ちょっと皮膚が破けてる。
 何かしたっけ? って、ちょっと考え込んで。
「あ。」
 直ぐに思い当たった。
「だいじょぶ、だいじょぶ。なんでも無いから」
「でも――、昨日の件でのじゃないんですか? ホントにごめんなさい」
 しゅんとショゲカエル姿が、結構可愛い。
 飼い主に怒られたワンコみたいだ。
「んーん、これは別件だよー」
「別件?」
 きょとん、って瑪瑙のような無垢な瞳で見つめなおされると。
 本当に箱入り育ちなんだなーって、実感させられる。
 うーん、これは確かに可愛いかも。
 イケナイ事教えたくなっちゃうよね。
「えっとねー。これは昨夜、香織とネクタイぷれ…」
 もがっ。
 ちょっと乱暴に、口を塞がれた。
 誰に、なんて。
「??? 正宗さん? 何してるんですか?」
 でもって、美国探偵事務所のお姫様は、逞しいボディーガード兼お母さんな正宗君に、両耳をしっかりガードされてた。
「はいはい。なんでもなーい、なんでもなーい。
 恒ちゃん、ちょっと奥に行こーか」
「へ? 何で急に?」
「うんうん。いいからいいから」
「?? はぁ…」
 簡単に言いくるめられて、正宗君と一緒に退場な恒ちゃんを見送りながら。
 俺は未だに口を塞いでいる香織の手を、ペロリと舐めてみた。
「! バッ…!」
 真っ赤になって手を引っ込めてしまう香織。
 ちょっと残念。
「で、その傷。香織とのネクタイ緊縛プレイでもしたってか?」
 美国探偵事務所に咲く、一輪の毒の華。禁断の美少年。
 もとい、極悪性悪根性曲がり、おまけに天邪鬼。
 ――のくせに、照れ屋なトコが可愛い巧美ちゃんが、ソファの上で呆れる。
「やーん。巧美ちゃんの、えっちぃー」
「……死ね。」
「えー、ヒドイなー。巧美ちゃん」
 ね? と、香織に同意を求めると、耳まで赤くして俯き加減に、両肩を震わせていた。
「ウルサイッ! バカ!! 恥知らず!!!」
 そして、キッと怒りを滲ませた、ものすごーく色っぽい瞳で睨まれて。
 ダンッって、事務所を飛び出して行っちゃった。
「ありゃー…」
「ありゃー、じゃねーだろ。ちった、慌てろよ」
「えー、十分慌ててるよぅ。失敗失敗」
「……お前みたいなのに惚れるなんざ。香織も難儀だな」
「んー、それはちょっと違うなー」
「あ?」
 予想しない反論に片眉を跳ね上げる巧美ちゃんに、俺はへらっと表情を崩した。
「俺は香織に惚れてるけど、香織は俺に同情してるだけだよ」
「………」
「さーてと。じゃ、俺はもう行くね〜。またねぇ〜、巧美ちゃん」
 不機嫌そうに黙る巧美ちゃんの、物言いたげな視線から逃げるように。
 香織の後を、ゆったりとした足取りで追いかけた。



なんだか、メラっちは羞恥心とかいうのがあまり無い様でス
すっぽり、そういう人間性を落としてきたカンジですー
そして、かおりたんに対して、自分でも持て余してしまう
負い目のようなものを、持ってしまっています。
そんなメラっちがジレッタイ、かおりたん。そういう距離感です
それでは、ブラウザは閉じてお帰りくださいネ