夜の獣 in肝試し

「………肝試し?」
 いつものように寄宿舎外れの屋外練習場に、夜の夜中に呼び出されて、多大なストレスを感じていた銀髪の鬣も麗しい少年は、待ち人の第一声に更に疲労と苛立ちを募らせた。
「そう、肝試し。参加するだろう?」
 一方、何がそんなに嬉しいのか全開の笑顔でいるのは、実力だけは確かだが、人間性やその人格に於いて多大な疑問を抱かせるWGPレーサー、ブレット・アスティア。
「――…用事ってのは、まさかそれかよ…?」
 不穏な空気を纏うカルロだが、ブレットは微塵も動じず落ち着いた様子だ。
「明日の夕方から――いや、もう今日か。兎に角、時間を空けておいてくれ。O.K?」
 有無を言わせぬ言い草で、相手の意向などお構いなしに決定事項を押しつけてくる。この辺りの強引さは、多種多様な人種が一国家を形成する米国の国民性か、はたまた、単なる個人の性格故か。
 どちらにしろ、――…お子様のお遊戯につき合う程の暇人じゃない。
「……断る。
 だいたい、テメェは大事な用事があるとかなんとか言いやがって、その内容がコレか?
 他人ひとバカにしてンのか…ッ!」
 銀の鬣を逆立て怒鳴り散らすカルロに、やはりWGP出場レーサー切っての優秀さを誇る相手は余裕綽々でいる。
「つれない言い草だな? カルロ」
「テメェに媚びてやる義理はねェな」
「……そうか?」
「当たり前だッ! それに、前の時に確か言ったはずだぜ。『恋人』の約束は無効になったんだろ! 『敵』に馴れ馴れしくされる謂われはねェ。もう俺に付きまとうんじゃねェ!!」
「随分強気な発言だな」
 厳しく言い放つイタリア産の美しき荒馬に向かい、金髪の方は夜の最中にも着用するゴーグルの下で碧眼を笑みの形に歪めた。
「……ッ、?」
 その酷薄な笑みの正体が知れずに思わず怯むカルロだ。そんな獲物の様子に愉悦すら覚え、王者の風貌を讃えるレーサーは己の首筋に巻かれた白い布を指先で撫でた。
「コレがな……疼くんだ」
「…テメェがトチ狂いやがるからだろ…」
 低く呻るように牽制すれば、金の狼は暗く会心の笑みを見せた。
「…はっ、そうだな。狂ってるな俺は…。我ながら正気の沙汰とは思えない位だ」
 けれど。
「ッ、なん…っ」
 ぐん、と、無遠慮に距離を詰める乱暴な獣。
 月の光の下では更に艶やかにその存在を誇示する銀が、驚愕に一瞬だけ目を見張った。
「〜〜〜っ、ン…!」
 その隙をついて、ブレットはカルロの腕を取り、無理矢理に口唇を重ねた。強引に赤い舌肉をねじ込み、口腔を犯す。
「……! ……〜〜〜ッ、!!」
「ッ、」
 小さく声を上げるカルロは、ブレットの舌に噛み付いてやろうと瞳を閃かせるが、ギリ…、と、顎を掴み上げられ抵抗もままならない。
「ッ〜、!!」
 どうにか蹂躙者を突き飛ばし、その乱暴な牙から逃れる極上の獲物。
「て、めッ…」
 息苦しさの為に眦にうっすらと涙を溜め、目元を赤く染めて睨み上げてくる。その凄烈な視線が全て暴くようで、いっそ、心地よい。
「……いいな、ソソルるぜ。カルロ」
「…一遍死んでこい」
「その生意気な口から俺を愛してると言わせる日が愉しみだな」
「――…だッ、れが言うか! ざけんなッ!! ッ、!?」
 激昂するしなやかな獲物の腰を抱き寄せようとするが、今度は流石に警戒していたのだろう、ひらりと身をかわして捕獲者の腕から逃れる。
 ――…一瞬、腕を取られはしたが。
「つれないな?」
 しかし、嘱望する存在に見事に逃げられ、それでも金色の捕食者は口端に笑みを浮かべて、厚いゴーグルの底からゆっくりと目を細めた。
「まぁ、いいさ。
 …『恋人』の約束は破棄されたんだ。俺も余裕が無くなった事だし…遠慮なしにイかせてもらうぜ。必ずお前から……欲しいって、言わせてやるぜ?」
 くくっ、と、喉の奥で低く笑いを籠もらせるブレットに、カルロは歯噛みした。
「テ、メェ! 誰がッ…!?」
 牽制するように右腕を大きく前に振るカルロは、その袖から乾いた音がするのに気付いて、怪訝そうな表情をする。
「ああ、それは俺からの宣戦布告…贈り物だ」
「………?」
 一体何を? と、袖口から物を取り出せば、白の封筒が。きっちり糊付けしてあるので、その中身は知れないが、手紙にしては少々な硬質な感触。カードの類だろうか。
「部屋でゆっくり開けてみろ。成る可く一人の時に、な。
 ああ、念のため言っておくが、捨てたりすると後悔するからな、止めた方が良い」
「………」
 得体の知れぬ台詞を言い捨て、ブレットはその場を立ち去った。

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「あーら、カルロ? 何処行ってたの〜。ボスから連絡があったわよ〜」
「――ボスから…」
「帰ったら連絡させろってサ☆ なーんかご機嫌ナナメだったわよ〜? 早めに連絡いれといた方がいいわよ〜? ボスってば、結構しつこい性格だしねー。ま、朝になってからでもいいと思うけど?」
 華奢な体格に女性らしい言葉遣い、化粧を施された綺麗な顔立ち。
 個性的なレーサーが集うWGPの中でも、特に目立つ存在の――少年、だ。
 深夜になって自室へ戻ってきたチームリーダーを廊下で捕まえて、チームオーナーであの言葉を伝える。
 痩せた肩にしなだれかかるようにして、クスクスと耳に触る微笑を零すジュリオ。その吐息は微かに酒臭い。
 アルコールの臭いは好きじゃない、でなくとも、他人に触れられるのは極端に嫌う性質のカルロは、強引に絡みつく腕を解きさっさと歩き出した。
 きゃ、と。
 不満と非難をまじえた悲鳴が背後で上がったが、どうせ半分は演技だ。
「ちょぉっと〜、折角教えて上げたのに、酷いんじゃないの〜?」
 いつもなら罵詈雑言の類を吐き捨てて、それで終いとなるべきやり取りは、何故かしつこく絡んでくる相手によって長引かされた。
「ねー、ねー、ねー。
 カルロ、アンタさ〜ぁ。最近一人でよくいなくなるわよね? なーにしてるわけ?」
「……テメェに言う義務はねェ」
「あはは☆ そう言うと思った〜。ケチねぇ、あたし達仲間じゃないの。最も、ビジネス上だけどね☆〜」
「……放せ、殴られてェのか」
「いっやーん、やば〜んカルロってば〜♪ そんなつれないとこが、ダ・イ・ス・キよぉ〜んv かーぁわいいぃ〜♪」
 低い声で脅されようとも、ケタケタと高らかに笑い声を上げるばかりのジュリオに、流石のカルロも二の句が告げぬ状態となる。
「………」
 見た目ではわかりにくいが、これは相当酔っている。
 おんぶお化けのようにして背中に張り付く、背一つ分小柄のチームメイトの泥酔っぷりに、カルロは軽い苛立ちと諦めにも似た思いを抱いた。
 ――…古今東西、酔っぱらいの理解力は無きに等しいと決まっている。
「……ふふーん、カルロってばやーっさしーぃ、アタシ部屋まで送ってくれるのよねーえ?」
「知るか、自力で帰れ」
「だーめー、もう一歩もぉ〜、あるけな〜…ぃぃ……」
「……おい。」
 ずるずるずるっ、と、そのまま力尽きて下に寝そべるジュリオ。小悪魔的な魅力を醸す顔が汚れるのも厭わずに、冷えた床に頬ずりする。
「………」
 ここまでくると、怒りを通り越して呆れ果てるばかりだ。
 この場に捨て置いても一向に構わない…どころか、本心ではここに放っておきたい位だが、そうすると、酩酊している姿をオフィシャルに発見されてしまう危険性がある。日本の法律では二十歳未満の飲酒は禁止されている。厳戒を破ったとなれば、レース出場権すら剥奪されかねないのだ。
「…おい、ジュリオ。送ってやるから部屋の鍵貸せ」
「ん〜? 鍵〜? どーこやったっけ〜?」
 脳天気にケタケタ笑い出すと、直ぐにまた眠りにつく。
「おいッ…、……チッ。このバカがっ…」
 忌々しく吐き捨てて、カルロは仕方なく厄介な酔っぱらいを連れ、自室へと帰った。

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 どさり。
 少々乱暴な扱いで、背中の荷物をベッドの上に放り投げる。
「〜〜ったく、…じょーだんじゃ…」
 幾ら小柄で華奢とは言え、カルロもそう体格の良い方ではない。どちらかといえば、しなやかな動きと俊敏さをスタイルとする体なので、意識のない人間一人担いで己の部屋までの距離を歩くのは、相当の負担となった。
 いらぬ労働に腹立たしさが沸き上がるが、その原因は気の抜ける幸福顔で寝こけている。
「………」
 はぁ、と。
 諦めにも似た溜息を長く吐き出すと、カルロはふと、己の懐へと手を伸ばした。
(――そういや、……なんなんだこれ)
 あの余裕面を思い出すだけでも癇に障る。WGPでも屈指のトップレーサーであるアメリカ野郎から押しつけられた封筒を、カルロはデスクチェアに腰掛けながら開封した。
「……写真?」
 と、小さなカードと。
 どうせロクなものじゃあるまいと、何気なく撮られた写真を目にして――、
 ダンッ!!!
「ん、ぅ〜?? うるさいわねぇ、な〜ぁにぃ〜?」
 激しい物音に、泥のような眠りの淵に落ちていた端迷惑なチームメイトが、寝ぼけ眼でぼやく。
「……? あれ、ここ…」
 天井や壁、その造りは自分の部屋と大差無いが、それでも化粧品の一つも置かれてない素っ気ない部屋は、見覚えもない。
「? アタシ…確か……。あー、そうそう。カルロに……」
 仲間内で飲み合って、夜も更けてきたので一人で部屋に戻ろうとしていたら、その途中でチームを率いるリーダーに逢ったのだ。
 そこからの記憶は所々飛んでいて良く思い出せないが、……ここが自室でない以上、カルロの部屋に運ばれたのだろうと推測される。
 ――しかし、肝心の部屋の主は見あたらない。
 所用で出掛けたのだろうかと考え、まだ酒が充分に残る頭が良からぬ企みを抱いた。
「―…ふふん、いい機会だから……物色しちゃおっと♪」
 『仲間チーム』とは所謂建前で、実際、イタリア編成チーム・ロッソストラーダのメンバーはお互いを食い合う弱肉強食の関係だ。
 気を緩めれば己が喰われる、微塵も躊躇わず相手の喉笛を食いちぎり屈服させ、その極みに立つ者こそ、ロッソストラーダのリーダー『カルロ・セレーニ』という王者。
 その王の弱みでも握れたのなら、さぞや愉快な事になろう。
「んーとぉ、とりあえず基本は引き出しの底とかよねー…、後、本の間とか?」
 危うげな足取りで机に近付く、と、そこでジュリオは興味深い素材を発見した。
 ――握りつぶされた一枚のカードと、数枚の写真。
「んっふ〜。これはビ〜ンゴ、ってヤツ?」
 如何にも曰くありげな様子だ。これは正に、千載一遇の機会チャンスであろう。ジュリオの抜け目無い瞳が妖しく光る。
「どれどれ〜?」
 興味津々に、性質の悪い酔っぱらいは丸められた写真を手に取ったのだった。

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 トロトロと降りてくるエレベーターなんて待っていられないと、銀の鬣が美しい野生馬は、一足飛びに階段を駆け昇った。
 寄宿舎は西東の二つの建物が中央通路で繋がっており、それぞれ、各階事に国分けがなされている。
 カルロ・セレーニ率いるイタリア暴れ馬チームは西館の三階。ブレット・アスティアをリーダーとするアメリカのエリートレーサー達は東の四階が割り当てられていた。
 その、東館を目指して、カルロは駆けていたのだ。無論、目的はただ一つ。
(あンの、バカ野郎ッ…〜〜!!)
 怒りに我を忘れて疾駆する少年だったが、その目の前に厳重なセキュリティが立ちはだかった。
「……ッ、これがあったか…」
 互いの生活圏を完全に遮断する為の電子ロックが、正常に作動している事を告げる青いランプを灯して扉の前に在った。
 中に入る為には、予め許可を取っておくか、その国のIDを持つ人間だけだ。
 共同生活で起こる数々のトラブルを未然に防ぐ意味で必要な処置だが、すっかりその存在を失念していた。
「……チ、」
 苛立ち舌うつカルロは、憎々しげに扉を一睨みし、大人しく引き下がった
 今のところ、イタリア編成『ロッソストラーダ』は品行方正をその旨としており、無益な騒ぎは好むところではない。下手な真似で出場停止でも食らえば、それこそ目も当てられない。
「くそッ…! あのイカレ野郎…」
 不敵な笑みと不遜な態度が鼻につくアメリカのエリートを小さく罵ると、高潔なる銀のレーサーは西館へと戻っていった。

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 次の日の朝、WGP最優勝候補チーム『ロッソストラーダ』の最高峰に位置するカルロ・セレーニは、丁度共用生活区域である大食堂に姿を現したブレットを見て、迷わず近付いた。
「……Hello,good morning.」
 ただならぬ気配を漂わせるカルロに対し、NAアストロレンジャーズのチームリーダーたる少年は、涼しげな顔で白々しく朝の挨拶を口にする。
 無論、怒り心頭の少年が応えるわけもない。
「顔貸せ」
「…O.K」
 人目を避け、さりげなく柱の影に移動しながら、二人の少年は鋭く対峙した。
「…てめェざけんなよ、アレは何のつもりだッ…」
「気に入ってもらえたか?」
 小さく口端を持ち上げて、まるで小馬鹿にしたような仕草で挑発するブレットに、カルロは、ぎり、と、奥歯を噛みしめた。
「……ここがスラムなら、生かしちゃおかねェ……」
「残念だったな、生憎ここは世界的な注目を集めるWGPレーサー為の、健全たる宿舎だ」
「…は、健全が訊いて呆れるぜ…! テメェ、――…上品なエリート様のやることとは思えェな。反吐が出るぜ!」
 朝の早い時間帯とはいえ、やはりそこそこに人の姿が見られる。強烈に暴力的な衝動が沸き上がってくるのを、自制心で抑え込んでカルロは豪華の如き深紅でアストロレンジャーズのリーダーを睨め付けた。
 すると、厚い琥珀色のゴーグルの下、小気味良いとばかりに微笑する気配を感じ、ますます視線に険を籠めるカルロ。
「……イイな、クるぜ。その目…」
 と、ふいにかすれた低声が耳元を掠めて、
「ッ!?」
 何を、と、不審を抱いた時には、既に口唇を奪われていた。
「!! ッ、〜〜〜〜!!」
 宿舎内で妙な事を起こすまいと完全に油断していたカルロの、その隙をついての行為だ。
「〜〜〜っ、ン! うぅ!!」
 幾ら人気が無いとはいえ、物陰に隠れての事とはいえ、何処で誰が見ているかもしれない状況で、気がふれたとしか思えぬような行動に出るブレットを、一瞬の後正気を取り戻したカルロは慌てて引き剥がそうと試みる。
 が、
 純粋な力比べなら、ウェイトの差で細身の少年には分が悪い。
 ――…こんな場面を誰かに…特に、同チームの奴らにだけは目撃されるわけにはいかなかった。
「……可愛いな」
 頬を紅潮させ肩で息をつく銀の鬣をした獲物が、ぐい、と、己の口元を袖で荒く拭うのを見て取って、狼は飢えを感じさせるように囁いた。
 その、薄い口唇からは一筋の赤が、伝い落ちてゆく。
 ぺろりと、凶暴に舌なめずりして己の血を味わう、そんな姿が何故か相応しかった。
「ざ、ッけんな! てめッ…!」
「騒ぐなよ、人が来る」
「〜〜〜っ、」
 的確な言い様に、ぐっ、と詰まるカルロ。
 素直に、とは言いがたいものの、自分の意見に従い戦闘態勢を解いた相手に、ブレットは奇妙な征服感を得た。
「午後三時に、昨夜の場所で待ってる。――来いよ」
「……誰が…」
「選択権は無いぜ、…わかってるはずだろ?」
「………」
「物わかりがいいな。O.k . Good boy. また、後でな」
 立ち去って行く金髪のレーサーの嫌味さが、余程カンに触る。だが、今は――従うしかなかった。

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「よーしっ、みんな提灯は持ったな!」
 意気揚々、声を上げているのはミニ四駆発症地、日の本の国の代表チーム『TRFビクトリーズ』の爆弾のようなお子さまだ。
 年の割に身の丈の随分小さいレーサーだが、身体的不利を補って余りある活力の持ち主で、気分屋なのがたまに傷な、ビクトリーズのムードメーカー的存在だ。
「じゃあ、肝試しの内容とルールについて説明するダス!」
 と、豪の前に横入りするように、鷹羽リョウの弟、次郎丸が畳の上に地図を広げた。
「よぉっく聞くダスよ。
 スタートはここ、トンネルの真ん前ダス。このトンネルを抜けると、直ぐ右の道路脇にお地蔵様があるダス」
「そしたら、お地蔵さんの横に階段があるでゲスよ。それを昇っていって貰うと、境内があるでゲス。そこに帰りの分の蝋燭が置いてあるでゲス〜♪」
 次郎丸の言葉に続いて、今度は金持ちである事をこれ以上ない位に主張した服装のお子さまが、うきうきと説明を続けた。
 ――…そう、この二人は保護者である土屋博士とWGP鉄心名誉会長と共に、日の明るい内に肝試しルートの確認に行って来たのだ。
「それで、またトンネルを戻ってくるダス。往復で25分くらいの距離なんダスけど、一人ずつだと『もしもの時に危ないから』って博士が言ってたから、二人一組で行くダス」
「二人一組?」
 褐色の肌に際だつ金の髪が異国風靡な魅力を醸す少年が、不思議そうに鸚鵡返した。
「そうでゲス、ちなみに組み合わせは厳選なるくじ引きで決める事にしたでゲス♪」
「さ、引くダス!」
 何故か小さな体で精一杯ふんぞり返り、次郎丸がこよりをみんなに差し出した。
「ちなみに、ワテ等は今回不参加でゲスから、丁度一人余るゲス。だから三人一組で行ってもらうチームが一つあるゲスよ」
 トレードマークのセンスをぽんっ、と、開いて口元にし言う藤吉に、一人もの申す人間が居た。
「あ、待って! なら、僕が…!」
「駄目!」
 WGPを戦うチームの中でも異色の、個々に全く違う種類のマシンを操るTRFビクトリーズのメンバーを纏める赤毛の少年の言い分を、しかし、彼の弟が一蹴した。
「ぜぇ〜〜〜ったい、駄目! 兄貴は参加!! 何ボケたこと言ってンだよ!」
「ンなっ! なんでお前に俺の事を指図されなきゃいけないんだよっ! 大体、肝試しだなんて聞いてなかったんだからな、俺は! 参加しないったらしない!!」
「何、我が侭言ってんだよ今更!! 兄貴が参加しなかったら駄目だろ!!」
「ワガママ!? これを我が侭って言うんなら、お前なんか自分勝手だらけじゃないか!!」
 喧々囂々言い争うビクトリーズの要と言って良い存在の、星馬兄弟。
 その弟である豪は普段通りの有り様なのだが、一つ年上の兄、烈はこうも声を荒げるのは稀だ。礼を弁えるべき相手には常に穏和で人の良い顔で接するだけに、TRF以外のメンバーは一様に物珍しげだ。
「へぇ〜、意外。レツ君ってゴウ君と話すとき、『俺』なんだ」
「ま、兄弟だからな〜。遠慮ないんだろ」
 NAアストロレンジャーズの紅一点。ブロンドのポニーテールがチャームポイントの少女と、ナンパ師の異名を獲るエッジが感心したようにしてる。
「あ。じゃあ僕が抜けようか?」
 睨み合う二人に堪りかねて、Jが提案するが、
「却下だ」
 と一言、何故か断定的な口調で、隣りに座るリョウに切り捨てられてしまった。
「え、でも…」
 困ったように非難がましい瞳でじっと見上げてくるJに、しかし、野性的な二枚目の顔立ちをした少年は、一瞥をくれて押し黙っただけだった。
「あー、もー。これじゃ、話が先に進められないでゲスよ」
「じゃ、こうしよっか?」
 なおも、互いに一歩も譲らぬ言い合いをする星馬兄弟の合間に割っていったのは、意外な人物、だった。
「ボクとレツと、ゴウ君。三人で行く。どうかな?」
「えぇーーーーーっ!!?」
「三人一緒に行けば少しは恐くないよね。それに、ゴウも居れば心強いんじゃないかな。
 ……それとも、ボクと一緒じゃ嫌かな、レツ?」
 如何にも不満そうな声を上げる正直なお子さまを華麗に視界の外へ追いやって、サーキットの貴公子は、列の手を取り微笑みかける。
「えっ、あ、いやだなんて…」
 王子様スマイルにたじたじになる烈に、ミハエルは満足そうにした。
「じゃ、いいね?」
「えと、でも…組み合わせはくじ引きで……」
「いいでゲスよ、それで決めてもらっても。じゃないと、何時まで経っても話が纏まらないでゲス」
「ダス。」
 一応、今回の肝試しを取り仕切っているような形の次郎丸と藤吉が同時に頷いた。
「あ、じゃあ、あたしはエッジと行きたいわ。ね、エッジ?」
 と、そこへ利発な少女が手を上げて発言した。
 ――…豪、烈、ミハエルの三人が決まってしまえば、残すはリーダーとカルロ。それに、リョウとJだ。
 ハッキリ言って、どこに紛れても恨まれる結果となりそうだ、と。
「ああ、俺も野郎とつるむよりは男勝りでもジョーとの方がいいしな……」
「誰がなんですって?」
「イデ、イテテッ…」
 失言により、耳を引っ張り上げられるエッジ。
「それじゃ、俺はカルロと行かせてもらおうか」
「俺はJ と」
「だぁ〜っ、もー、みんな勝手にするでゲスよっ!」
 結局、パートナーはくじ引き形式ではなく各々の希望という形で決定され。豪ただ一人と話し合いの場に参加しないカルロを除いては、全員が満足する結果となったのだった。
 そして、肝試しの始まり。

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ブレットは天然にカルロにメロメロです
ただ色々捻じれててたりズレてたりするので
残念なことに愛情が伝わりにくい